第254話 迫る刻限
「第十二皇子殿下、ご無礼をお許し頂きたく!クノハルはいますか!?」
いきなり『黒葉宮』に駆け込んできたフォートンは目の前の光景に一瞬だけ驚く。
ギルガンドとクノハルが揃って、オレ達に、
「挙式の準備のため、これから度々、急なお休みを頂く事もあるかと存じますが……」
「どうかお許し頂きたく存じます」
と頭を下げていた所だったから。
ユルルアちゃんがいたら『まあああーっ!』と大喜びしていただろうが、今は久しぶりに実家のカドフォ公家に帰省しているのでいなかった。
「無論だ、許可しよう。それにしても僕の思っていた以上にトントン拍子で進んでいくが、これもご縁と言うものか――」
――そんな和やかな雰囲気の中、血相を変えたフォートンが飛び込んで来たのだった。
「『賢梟』、どうした?クノハルに何の――」
ギルガンドは嫌そうな顔をして同僚を見るが、その手をフォートンは掴んで安堵の声を出す。
「貴公もいたか!助かった!これで間に合う!――事情は後で話す、今すぐクノハルと私をハルハの住んでいた官舎に運んでくれ!」
どうも二人の邪魔をしに来た雰囲気では無い。何かの、重大な事件が起きているようだ。
「分かった。――殿下、御前を失礼いたします」
一礼してから、ギルガンドはクノハルとフォートンを小脇に抱えて飛んでいった。
「それで何があった?」
「実は――」
抱えられながら、フォートンは手短に話す。ハルハが処刑された事。それをエルフ族の神殿騎士が伝えに来た事。今カルポとロクブが時間を稼いでくれているが、いずれハルハの荷物もその神殿騎士によって押収されるであろう。その前にクノハルにハルハの残した全てを覚えて貰いたい――。
「『睡虎』が処刑されただと!?」
ギルガンドは煮ても焼いても食えぬあのハイエルフの顔を思い出して、愕然とした。
フォートンは小声で言う、
「そうだ。しかし私には『睡虎』がむざむざと同胞に処刑されるような愚か者とは思えないのだ。きっと何らかの手がかりを残しているに違いないと……そう信じている」
「彼奴なら、あり得る」




