第24話 無垢なだけの恋②
ニコニコしたゲイブンが入ってきて、さっと円卓の上にお菓子の詰まった木箱を置くと、
「お邪魔しやした!」
すぐに出て行った。
娼婦達が実際に、その頭に犬の耳が、尻に尻尾が生えているように錯覚したほど、無邪気な笑顔だった。
「……あれ?」
卓の上に置かれた木箱を見て、帝都の噂話や流行に人一倍に敏感な彼女達はすぐに気付いた。
「これって『ラングドシャ』じゃない!?」
「え、嘘!?」
「モリエサ第三皇女殿下が開発したって……!」
「ねえ、これって皇室御用達の御菓子工房『インペリアル・ヴァイオレット』でしか売っていないんでしょ!?」
「違うわ、『売っている』じゃないの!あまりにも人気すぎて帝国城外じゃ注文を受けた分しか出回っていないのよ!」
「い、いくらしたのよ……これだけの量!」
「ロウさんの妹が、ほら、殿試を突破したって話の……。きっと彼女に頼んだのよ!」
「羨ましいわ……持つべきは優秀な家族ねえ……」
「それは言わないの。あたし達は全員、家族に恵まれていないからここにいるんでしょ」
「あははっ!それはそうよね!」
誰もが笑って、それぞれお菓子に手を伸ばし、美味しい、甘い、と顔をほころばせて食べる。お茶も運んでくるよう犬に言っておけば良かったわね、お菓子とお茶は一緒だって躾けておこうかしら、と誰かが冗談を言って、それがきっかけで全員が大笑いした。
この『フェイタル・キッス』にいる娼婦達は不思議と仲が良い。
マダム・カルカが拾ってきた者ばかりだが、どうしてか、いがみ合わずによく全員でこんな風に笑っている。
大丈夫。微笑んでフェーアは思った。不幸なのは自分一人だけじゃない。誰だって他人に見せないだけで、辛さと悲しみを抱えている。肝心なのは痛みに心の全てを潰されてしまわない事だ。だって生きていれば、こんな美味しいお菓子を食べられる日だってあるのだ。
だから、大丈夫。




