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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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234/297

第233話 騒乱の始まり

 その後について語ろう。


 ――あれから色々あった。

まず、ブォニート率いる公国は瞬く間に瓦解した。

その領土はマーロウスント王国に全部吸収されるかと思いきや、ちゃっかりとホーロロ国境地帯の部族衆が生活圏を勝手に広げてしまったので、少しだけだが減らされてしまったらしい。

しかしホーロロの背後に帝国の姿が見え隠れするため、マーロウスントの国王(※即位した)も――あまり厳重に抗議は出来なかったのだった。

ただ、領土の事で譲歩させた代わりに、国王からの要求に応じて帝国からブォニートの身柄はマーロウスント王国に移送されたと聞いた。

そして、即位式の直後。

マーロウスント公国(仮)の主立った者は公開処刑されたそうだ。



 一方、ロサリータ姫はと言うと、精霊獣『マスコット』を従えている事が今回の事で判明したため、表向きは帝国城で人質として――実際は、後宮で空いていた『重福宮』に住まわせて大事に『保護』する事が確定したのだった。

 そう、彼女はそうやって『重福宮』で丁重に遇されて穏やかに生活しているはず……だったのだが。



 「ねえ、テオドリック殿下。私もテオ様って呼んでも良いかしら?」

……今。

ニコニコしながら、オレ達の『黒葉宮』に椅子を持ち込んで勝手にオレ達の向かい側に座っているのだ。

「どうして君がここにいるんだ、ロサリータ姫」

「『どうして』って……私達がテオ様の『助手』になろうと思ったからよ?」

次の瞬間、止める間もなくユルルアちゃんが奥の厨房から肉切り包丁を持ってきて何のためらいも無くロサリータ姫めがけて突き刺した。

しかし、現れた精霊獣『マスコット』によって食い止められてしまう。

『ねえ、テオ様だって、こんな怖いだけの女より、わたしのロサリータの方が余程良いじゃない?』

「僕にとってはユルルア以上の女はいない。今すぐ出て行ってくれ、ロサリータ姫に『マスコット』!」

「テオ様……」肉切り包丁を手放してユルルアちゃんが泣き崩れた。「お慕いしております……!この世のどなたよりもお慕いしておりますから!」

「僕もだ、ユルルア」オレ達は車椅子をどうにか動かしてユルルアちゃんの元に行く。「どうか僕の側にいておくれ」

「テオ様……!」

情熱的に見つめ合うテオとユルルアちゃんの目には、他の誰も映っていない。

よし、これでハッピーエンドだ!

ってオレは思ったのに、

「でも私の方には『マスコット』もいるし、何よりおちちだって大きいのよ?」

だからロサリータ姫、まだユルルアちゃんと見つめ合っているテオの腕にこれ見よがしに胸を押しつけるのは止めてくれ!

ユルルアちゃんにぶち殺されたいのかよ!?

「下品だ、邪魔だ、出て行け!」

テオが邪魔そうに振り払うと、ロサリータ姫はにっこりと微笑んで――、

「ええ、このまま素直に出て行っても宜しいけれど――その足でこの国の皇帝陛下の所にテオ様が精霊獣を従えている事等々をお話しに参ろうかしらねえ……?」

オレ達の最大の弱みを握って、堂々とオレ達を脅してきやがったのだった……。



 「ユルルア、済まない……」

「テオ様の馬鹿!浮気者!大っ嫌いですわ!この裏切り者―!」

当然ながらユルルアちゃんは半狂乱で泣きじゃくるし、必死に慰めようとするテオにロサリータ姫はしつこくくっついて回るし、『マスコット』はニヤニヤしながら修羅場を観察しているし、オレはもうどうしたら良いのか分からなくて一人頭を抱えたのだった。

誰でも良いからこの修羅場を、どうにか、何とかしてくれー!



 「殿下、実は早退の許可を頂きたく」

……。

ユルルアちゃんが泣き疲れてしまった頃に、クノハルがやって来た。

「早退?どうしたんだ、具合でも悪いのか」

ちなみにオユアーヴは今日がマニイ夫人の誕生日だとか出勤後にほざいたので、直ちに退勤して盛大に祝ってやるように、日頃から感謝している事を言葉で告げるようにと厳命してある。

「その……ええと……」

本当にどうしたんだろう?

いつも辛辣にずけずけと物を言うクノハルなのに、ちっとも本題を切り出さない。

「ぐすっ、ううっ……その、テオ様、あまりクノハルの私事に深入りすべきではありませんわ」

目を真っ赤にしたユルルアちゃんに言われて、確かに要らぬ詮索だった事をオレ達が謝ろうとした時だった。

「いえ、その……その。ギルガンドと……」


 ヤバいぞテオ、部下のプライベートをほじくり返す上司は蛇蝎のごとく嫌われるんだ!

 この件は聞かなかった事にしよう。いいか、今すぐに綺麗に忘れるぞ!


 「有給扱いで書類を出しておく。変に穿ってしまった詫びだ」

こくん、と頬を染めて頷くと、いそいそとクノハルは出て行った。

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