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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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232/297

第231話 夢想ではなく信念を

 精鋭部隊によって調べ尽くされた特等席の中だが、一つだけ盲点があった。

精霊獣の魔力による『鍵』――恐らく『ジンクス』の魔力を開閉の際の鍵として使っていたのだろう。

オレ達が壁に魔力を流すと手応えがあって、勝手に壁が割れて、左右に動き出したのだった。

そうやって、『開けごま』で開けた扉の先には――僭主ブォニートと精霊獣『ジンクス』、彼らの護衛に囲まれて、まるで人質のようにされて車椅子の上で項垂れているロサリータ姫がいた。


 「貴様ハ!――我ラの同胞を討ち取ッた仮面の者!」

『もうやめて……おねがい……もう、もう誰も傷つけるのは嫌なの……!』

精霊獣『ジンクス』と護衛達がオレ達を取り囲む。その隙にブォニートはロサリータ姫を車椅子から外し、素早く抱きかかえて、通路に繋がる階段の中に引き返した。

「名を名乗レ!」

――そう聞かれたら、オレ達は名乗るしかないじゃないか。



 「誰と聞かれたら応えてやろう」

 「ガン=カタを愛する者として!」



 「コの道化師メ!」

「討チ取ってくレる!!!」

「――ガン=カタForm.9『ハーミット』!」

オユアーヴの最高傑作の2丁拳銃『シルバー&ゴースト・ネクスト』が火を吹いた。

零距離で敵の攻撃を躱し、同時に魔弾を叩き込む!

これぞガン=カタの醍醐味!

オレ達の圧倒的な火力によって護衛は瞬く間に全滅した。

そのまま、逃げたブォニートを追いかけるべく、オレ達はそれを阻む精霊獣『ジンクス』と相対する。


 『……貴方は、強いのね』

半分泣きながら、『ジンクス』は呟いた。

『わたしは、とても弱いの……弱すぎるから、大勢の人を不幸にしてしまったのよ……』

「哀れんで欲しいのか?慰めて欲しいのか?それは別の誰かに要求しろ。それとも『可哀想だから仕方ない』と自己正当化の言葉が欲しいのか?

――だとしたら貴様は誰よりも邪悪で、有害な存在だな。

最も言われたくない言葉をあえて己の口から吐く事で、ただ己が最大に傷つく事を回避し防ごうとしているに過ぎない!」

『っ!』

『従える者にいくら拒まれたところで、「ずっと一緒にいたい」とその手を無理にでも掴めば良かっただけだろうが。諦めたと言いながらいつまでも未練しか残っていない癖に、何をやっているんだ』

『あ、貴方に、貴方にわたしの何が分かるって言うのよ!』

分かって欲しいのなら伝える努力をしろ!

誰だって相手の頭の中で考えている事が分かるなら、言葉なんて必要無いだろうが!

『わたしは「スキル:カタストロフィー」であんなにも大勢の人間を傷つけて不幸にして、挙げ句殺してきたのよ!?わたしのロサリータにさえ「いなくなって」と望まれてしまった!

でも貴方は何も不幸じゃない!悲惨でも無い!そんな貴方に、一体わたし達の何が――』

『「黙れ、甘ったれ」』

言うなりオレ達は肉薄して銃口を向けた。

『――「スキル:カタストロフィー」!』

その瞬間に、まるで重力が数十倍になったかのように全身が重くなる。

かつて死ぬまで鞭打たれた背中を中心に、テオの体が悲鳴を上げるのが分かった。

だが、耐えられる。

この前のように直ちに歩けないまでにはならない。

やはり帝都をもうすぐ潰すべく、本来の力は出し惜しみしているのだろうな。

「――ガン=カタForm.14『テンペランス』!」

ならば、行ける!

オレ達は相手の魔力を奪い取る魔弾を放った。右肩を撃ち抜かれた『ジンクス』が悲鳴を上げてよろめく。

『きゃああああっ!?い、痛い!痛い、痛い、痛い!!!!』

「どれ程に不幸だろうと悲惨だろうと生きていれば痛いのだ!その痛みをよく覚えておけ!」



 オレ達は『ジンクス』を振り切って、地下通路へ下る階段を飛び降りるようにして駆け下りた。

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