第231話 夢想ではなく信念を
精鋭部隊によって調べ尽くされた特等席の中だが、一つだけ盲点があった。
精霊獣の魔力による『鍵』――恐らく『ジンクス』の魔力を開閉の際の鍵として使っていたのだろう。
オレ達が壁に魔力を流すと手応えがあって、勝手に壁が割れて、左右に動き出したのだった。
そうやって、『開けごま』で開けた扉の先には――僭主ブォニートと精霊獣『ジンクス』、彼らの護衛に囲まれて、まるで人質のようにされて車椅子の上で項垂れているロサリータ姫がいた。
「貴様ハ!――我ラの同胞を討ち取ッた仮面の者!」
『もうやめて……おねがい……もう、もう誰も傷つけるのは嫌なの……!』
精霊獣『ジンクス』と護衛達がオレ達を取り囲む。その隙にブォニートはロサリータ姫を車椅子から外し、素早く抱きかかえて、通路に繋がる階段の中に引き返した。
「名を名乗レ!」
――そう聞かれたら、オレ達は名乗るしかないじゃないか。
「誰と聞かれたら応えてやろう」
「ガン=カタを愛する者として!」
「コの道化師メ!」
「討チ取ってくレる!!!」
「――ガン=カタForm.9『ハーミット』!」
オユアーヴの最高傑作の2丁拳銃『シルバー&ゴースト・ネクスト』が火を吹いた。
零距離で敵の攻撃を躱し、同時に魔弾を叩き込む!
これぞガン=カタの醍醐味!
オレ達の圧倒的な火力によって護衛は瞬く間に全滅した。
そのまま、逃げたブォニートを追いかけるべく、オレ達はそれを阻む精霊獣『ジンクス』と相対する。
『……貴方は、強いのね』
半分泣きながら、『ジンクス』は呟いた。
『わたしは、とても弱いの……弱すぎるから、大勢の人を不幸にしてしまったのよ……』
「哀れんで欲しいのか?慰めて欲しいのか?それは別の誰かに要求しろ。それとも『可哀想だから仕方ない』と自己正当化の言葉が欲しいのか?
――だとしたら貴様は誰よりも邪悪で、有害な存在だな。
最も言われたくない言葉をあえて己の口から吐く事で、ただ己が最大に傷つく事を回避し防ごうとしているに過ぎない!」
『っ!』
『従える者にいくら拒まれたところで、「ずっと一緒にいたい」とその手を無理にでも掴めば良かっただけだろうが。諦めたと言いながらいつまでも未練しか残っていない癖に、何をやっているんだ』
『あ、貴方に、貴方にわたしの何が分かるって言うのよ!』
分かって欲しいのなら伝える努力をしろ!
誰だって相手の頭の中で考えている事が分かるなら、言葉なんて必要無いだろうが!
『わたしは「スキル:カタストロフィー」であんなにも大勢の人間を傷つけて不幸にして、挙げ句殺してきたのよ!?わたしのロサリータにさえ「いなくなって」と望まれてしまった!
でも貴方は何も不幸じゃない!悲惨でも無い!そんな貴方に、一体わたし達の何が――』
『「黙れ、甘ったれ」』
言うなりオレ達は肉薄して銃口を向けた。
『――「スキル:カタストロフィー」!』
その瞬間に、まるで重力が数十倍になったかのように全身が重くなる。
かつて死ぬまで鞭打たれた背中を中心に、テオの体が悲鳴を上げるのが分かった。
だが、耐えられる。
この前のように直ちに歩けないまでにはならない。
やはり帝都をもうすぐ潰すべく、本来の力は出し惜しみしているのだろうな。
「――ガン=カタForm.14『テンペランス』!」
ならば、行ける!
オレ達は相手の魔力を奪い取る魔弾を放った。右肩を撃ち抜かれた『ジンクス』が悲鳴を上げてよろめく。
『きゃああああっ!?い、痛い!痛い、痛い、痛い!!!!』
「どれ程に不幸だろうと悲惨だろうと生きていれば痛いのだ!その痛みをよく覚えておけ!」
オレ達は『ジンクス』を振り切って、地下通路へ下る階段を飛び降りるようにして駆け下りた。




