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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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第229話 とってもぐろいシーンです、ご注意!

 常人ならば死んでいる程に凄惨な拷問を受け続けた『闘剛』と『閃翔』は、己が血に濡れた髪の毛がべったりと頭に張り付いている有様だったが――それでもギルガンドの方は、依然としてまだ目に力が残っていた。


 「やはり帝国十三神将、頑丈ですなあ」

「天下広しといえど帝国十三神将がここまで痛めつけられる光景など二度とは見られますまい!」

「それにしても、『閃翔』のあの美貌。ただ殺すには惜しい……せめて首だけでも酒に漬けて取っておきたいものだ……」

急ぎ呼び集められた『赤斧帝』の寵臣達の中でも『ご贔屓』達は、『コロシアム』が精鋭部隊に囲まれている事も知らされず、目の前の二人の処刑にひたすら魅入っていた。

「しかし今日は公王は特等席におられないので?」

「何、帝国十三神将をここに連れ出すには散々に苦労なさったのであろう」

「そうそう、後処理に追われていらっしゃるに違いない」

「その分、我らはしっかりと愉しまねば損と言うもの」

「全くもってその通り!」

「ところで、足の爪を剥がさせた後は何をさせますかな?」

「腸を引きずり出すに限りますよ!」

「先に皮を剥がすのは如何で?」

「いや、このまま全身を生きたまま切り刻むが一番」

「私はとろ火をお勧めしたい、それか焼きごて、せめて茹でて……」

「何を仰るか、息ある内に獣に食わせるに勝るは無し!」


 処刑人達は、彼らの意見がまとまるまで、退屈しのぎに二人の体に鉄荊の鞭を打って遊んでいたが……とうとう残酷な観客達は、言い争いの末に意見をまとめたのだった。

「どうにか二人の殺し合う所を見たい」

と口を揃えて言うのである。


 どうする、と処刑人達は顔を見合わせた。気持ちはとてもよく分かるが、それは大変な難題である。


 「そうだ、奴等の家族を人質に取れぬか!」

 「どうにかして帝国十三神将同士が殺し合う所を見せよ!」

 「早く、疾く!」


 そうやって、ヤイノヤイノと彼らが急かして、口々に喚いていた時だった。



 「何だ。こんなつまらない見物を『見る』ための目なら、別に持っている必要なんて何処にも無いじゃないか」

杖を突いた盲目の男が、場違いにも『コロシアム』の死に舞台にひょっこりと現れたのだった。

侵入者か脱獄者だ、と処刑人達が襲いかかったが――。



 「俺の『パーシーバー』。全部やろう。悉くやってしまおう。こんな外道共に『知覚』も『感覚』も永遠に必要ない」

 『ええ、ロウ。このパーシーバーちゃんに任せて頂戴!――アンタ達なんか大っ嫌いなんだから!』



 最初、彼らは『コロシアム』の照明が全て同時に落ちたのだと思った。目の前が完全に真っ暗になったからだ。次の異変に気付いた時には、もう――己の心臓の鼓動さえも、音として聞こえなくなってしまっていた。血の臭いを堪能していた嗅覚も、美酒を味わっていた味覚も――最後に残っていた触覚さえもすぐさま分からなくなり、どちらが天地なのかも、前後左右の判別さえも付かなくなって――。



 「貴様……」ギルガンドは血を吐きながらも呆然と――『コロシアム』の高い観客席から次々と転落し、或いは声も出せずにのたうち回っている『赤斧帝』の寵臣達と、我先に逃げ惑う娼婦の悲鳴が入り交じった大混乱の中を、杖を突いて一人歩いてくるロウを見つめた。「まさか、貴様……」

「ああ、そこだったのか」

ロウは声がしたギルガンドの方を向いて近付いてきたが、幾つかその間には投げ捨てられた棘付きの鉄鞭があったので、杖で何度も突いて退かして、ようやくギルガンドの前に立ったのだった。

「まさか死んではいないだろうな」

『まだ……辛うじて二人とも生きてはいるわ。酷い怪我だけれど……』

そう言いながら、ロウはギルガンドらの拘束を外した。血塗れだったので外すのに案外、手間がかかったが。

「『闘剛』が、死にかけている」

「だったら先に外に連れ出してやれ。まさかアンタまで歩けないのか?」

「飛べる」

「そうか。この前、『逆雷』の爺さんと大勝ちした時に教えて貰った秘密の地下通路を通ってきた」

あっちだ、とロウは杖で指し示す。

「分かった」

血で滑る『闘剛』の体をどうにか抱えてギルガンドが空に浮かんだところで、ロウは告げた。

「俺は昔の知り合いとの因縁をここで精算しなきゃならん。先に行ってくれ」

「……」

ギルガンドは一瞬だけ、何をどう伝えるべきか、どう言葉にするべきか迷った。何を言ったら良いのかは全く分からないのに、とにかく何かを伝えなければならないと、それだけは分かっていた。

けれど咄嗟に口から出たのは、

「銘酒を用意しておく」

と言う素っ気ない言葉だけだった。

「そりゃあ有り難い」

ロウはいつものように飄々と笑った。



 血の跡と臭いを辿って突き止めた先――『コロシアム』の隠し部屋に潜んでいたザイテは止血こそされていたが、半ば死にかけていた。

それでも、ロウがやって来た姿を見た途端に、ニカリ、ニカリと乱杭歯を剥いて幸せそうに嗤う。

「あはぁはははは……。ロウだあ、俺の、大好きで大嫌いなロウだあ……。やっぱり『直感』は当たってたぜえ……!最期に、会えたあ……!」

ロウはもう怒っても嘆いても笑ってもいなかった。

「実は、アンタに紹介したい人がいるんだ」

ザイテの笑い顔が醜く歪んだ。

「誰だあ……?まさかロウの嫁じゃああるめえな……」

「いや、アンタもよく知っている連中だ」

ロウはゆっくりと後ろへと下がっていく。

代わりに前に進み出てきた者達の姿を見て、ザイテの嗤い顔がとうとう固まる。

彼らの瞳が、鮮血のように赤く輝いていたから。

「まさか忘れちゃいないだろうな。『スーサイド・レッド』はあの時確かにアンタを殺す依頼を引き受けた。それからずっと好機を狙っていたって事……」

「……おい、待てよお」ザイテは短くなってしまった腕を伸ばす。ロウに向けて伸ばす。届いて欲しくてもう一度だけで良いからあの肌に触れたくて、無我夢中で伸ばす。地べたに這いつくばってそれでも届かなくて藻掻いて、なのに永遠に届かないのが狂おしい程にもどかしくて、ニカリ、ニカリと嗤いながら泣き叫ぶ。「ロウが俺を殺すんじゃねえのかよお!?ここに俺を殺しに来たんじゃねえのかよおおおおおおおおお!!!!!!!!?

頼むから俺を殺してくれよお!他の誰でもないその手でえ!なあ、なああ、俺のロウよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」

「おいおい」ロウは呆れた声を出した。「人殺しは地獄横町の専売特許だぞ?俺の仕事は『よろず屋』だ」

『だって人殺しなんて面倒なだけの事、ロウがする必要なんてこの世の何処にも無いものねーっ!』

パーシーバーも頷いて、ロウの腕をぎゅうっと抱きしめたのだった。



 「さて、帰るか。――外でクノハル達も待っているだろうしな」

『ええ、早く帰りましょ、ロウ!それから、これが全部終わったらギルガンド君のおごりでしっかり飲みましょ!その時だけはこの素敵なパーシーバーちゃんも深酒を許してあげるわっ!一緒になって派手に遊んじゃうわよーっ!

ううん、いつだってロウが眠る時はこのパーシーバーちゃんが膝枕して子守歌で寝付かせて、朝になったらほっぺにキスして起こしてあげるんだから……。どんな時だって、死ぬまで一緒なんだからね』

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