第22話 皇太子からの密命
帝国十三神将が一人、『閃翔のギルガンド』ことギルガンド・アニグトラーン特務武官は皇太子と皇太子妃ミマナに密かに呼び出され、極秘の命を受けていた。
「其方も『シャドウ』の話は聞いているか」
「はっ。帝都の民が英雄のごとく持てはやしておりまするが、所詮は有象無象の輩でござりましょう」
帝国指折りで強いが、それに比例して驕慢なギルガンドの性格を熟知している皇太子達は、あえて反論せず頷いた。
徹底的に驕慢だが、ギルガンドは実際に自他に誇れるほどに有能で優秀だ。
上に立つ彼らがギルガンドとその周りの臣下との人間関係を調節さえしていれば、相当に『使える手札』の一枚なのである。
「実は他言無用で呼び出したのは他でもない、其方に『シャドウ』の正体を突き止めて貰いたいのだ」
「生死は?」
「生きたままでだ。相手が誰であれ殺さず無力化しうる力量を持っているのは、其方くらいであろう?」
「確と!」
ギルガンドは猛々しく目を輝かせ、粛々と密命を受けた。
『ヴァンよ、あれではいずれシャドウと激突するだろう。本当に良いのか?それにギルガンドはもう間もなく……』
ギルガンドが去って行った後でロードが懸念を呟いたが、皇太子は頷いた。
「シャドウはともかく、問題はシャドウも追いかけていると言う『神々の血雫』の事件についてだ。アレについて、私は言葉にならない不吉な予感がするのだ。ヴェドが例の件で手一杯な現状、ギルガンドほどの強者でなければかえって危険だと……」
『……「オラクル」、シャドウの正体や「神々の血雫」について、「スキル:メッセージ」で何か調べられないのか?』
ロードの呼びかけに、ミマナの精霊獣『オラクル』が静かに現れるなり、黙って首を横に振った。ミマナは物憂げに、滅多に言葉を発さぬ己の精霊獣を見てから小声で言う。
「……ロード、『オラクル』は確かに『スキル:メッセージ』で未来を予知出来るけれども、四割しか当たらない事は知っているでしょう?過剰に期待しては誰もが判断を誤るわ。シャドウの正体についてはしばしギルガンドに任せましょう。
ギルガンドとて、寝台の中で無力に息絶えるよりは、戦いの中での名誉と尊厳ある死を誰よりも求めているのですから。
それよりヴァン様。『神々の血雫』についての……不吉な御予感とは?」
「アレが何から作られているかは、ミマナも知っているだろう」
「……ええ」
ヴァンドリックは片手で額を強く押さえる。
「――ヴォイドが起こす事件の数から推察して……この帝都に流通しているアレは、そろそろ1体の精霊獣の血液で賄える量の限界に近しいのでは、と考えたのだ」
「っ!!!」
『……では、我ら精霊獣を従えるに足る皇族の血を持つ者が、最低で2人は国家反逆を企てていると!?』
ミマナは絶句し、ロードさえ形相を変えた。
「今は……はっきりとは分からぬ。だが、私がギルガンドをあえて選んだ理由の一つはそれだ」
『……ああ、ああ、ああ!』
その時、オラクルの予知が始まった。『スキル:メッセージ』が始まったのだ。
何かに取り憑かれたかのような、熱に浮かされたかのような謎めいた口調で話し出す。
『ギルガンドは未曾有の命の危機に陥ります。ですが――それで終わる事はありません。二つの影は一つの仮面に全てを隠し、ほの暗い闇の中を華麗に踊るでしょう』




