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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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第209話 訴える者

 しかし結局、その日はロサリータ姫と話す事はおろか、近づく事も出来なかった。

昼休みに保健室でオレ達が休んでいたら、以前アルドリック達にいたぶられていた官僚志望の生徒達が数人連れだってやって来たからだ。



 「この前は、助けて下さって本当にありがとうございました」

「気にしなくて良い。それで、今回はどうしたんだ?」

彼らは声を潜めて話し出す。

「殿下がたも、マーロウスントから王国の姫君と公国(仮)の姫君がそれぞれこの帝国に人質として派遣され、今もこの帝国第一高等学院で学んでいる事はご存じかと思われますが……」

「今朝、騒動になっていたのは見た」

「僕達は同学年なので、あれよりももっと酷い騒動が日常的に起きているのを目の当たりにしておりました……のですが」

あれよりもっと酷い騒ぎが日常的なのか。

だとしたらそろそろ帝国城でも問題視される頃だろうな。

「その、何処か奇妙だとは思われませんでしたか、殿下がたも」

「現状のマーロウスントでは、王国に勢いが無く公国に流れがある……」

「はい」と彼らはめいめいに頷いて、「何より、試験の成績はロサリータ姫の方がサレフィ姫よりも圧倒的に上で、芸事もとてもお上手になさっています。正直、彼女が人質でなければ僕達の立つ瀬が無いくらいでした」

「……ふむ。それほどの才媛なのに一時の感情に任せて、あのような愚かな振る舞いをしているのは、きっと何らかの理由があると君達は考えたのだな」

「はい、殿下。それに……」

彼らは目配せし合って、女官か女官僚志望らしい女子生徒が進み出た。

「これは私の勘なのですが、サレフィ姫に良からぬ思惑を感じるのです。ご自分からロサリータ姫に近づかれていますし……」

「良からぬ思惑だと?」

「何だろう……彼女、嗤っている気がしてならないんです。被害者の振りをして周りから哀れまれて、それに愉悦を感じている……そんな気配がするんです」

どうやらただの女の勘じゃないらしい。

同様の事を感じ取っているのが、ユルルアちゃんだけじゃないんだから。

「それは穏やかでは無いな……。しかし、だとしたら疑問がある。どうしてロサリータ姫からサレフィ姫に対して問題行動を起こしているかの動機だ。帝国城では別々の宮に預けられているはずの二人に、どのような接点があるのだろうか?」

「それについては僕から説明申し上げます」

女子生徒が下がって、別の生徒が進み出る。

「マーロウスントは5年前まで王家が全土を統治していました。ですが、問題だらけでして……。中でも大きな問題が次の通りです。

先々代国王と先代国王が『真実の愛』を宣って後ろ盾としても弱すぎる、貧乏貴族の娘を正妃として娶った事。挙げ句に二人とも早死にした事。後を継いだ王太子ガレトン殿下――即位が出来ておりませんので、王太子のままなのですが――彼がまだ若かった事。先代国王の異母弟であるブォニート公が大いに野心家であった事……」

「……内乱が生まれる条件が見事に揃っているな」

「おまけに先年にホーロロ国境地帯を越えて『赤斧帝』が攻め込みまして、この時に国防のためブォニート公が活躍した事も、反王家派が力を増す最大の原因となったのです」

「国を危機から救うために動いた者を支持するのはやむを得ない事だ」

「『赤斧帝』に攻め込まれた当時、王太子は7歳足らず。何も出来なくても無理は無いお年でした。それに対してブォニート公は国内の有力貴族と縁を繋いでいましたから……。

この戦乱が決定打となって、ブォニート公は名実ともに反王家派の盟主となりました」

「とても分かりやすい説明だ。続けて欲しい」

「お有り難うございます!――さらに王家にとって不幸は続きました。この直後に先々代国王の側妃であったディユニ様がお亡くなりになったのです。ご存じでしょうが、ディユニ様は『乱詛帝』の異母妹、この帝国の元皇女であらせられました……」

「王家にとっての最後にして唯一の後ろ盾と、抑えがいなくなってしまったのか」

「はい。ここで一度、登場人物の血縁関係を説明いたします。少しややこしくなりますが……」

「君の説明はとても端的だ。そのまま続けるように」

「お言葉に深く感謝して。

公国(仮)のブォニート公は先々代国王とディユニ様の長子に当たります。サレフィ姫はブォニート公の唯一の娘であらせられます。王国のロサリータ姫は先々代国王とディユニ様の間に出来た末娘ロデアナ様が隠れてお産みになった姫君で、サレフィ姫とは従姉妹、王太子ガレトンとは又従兄弟の関係にあります。また、先々代国王と『真実の愛』との間には先代国王しか子がおらず、その先代国王と次の『真実の愛』との間に出来た先代国王の一粒種が今の王太子ガレトンとなっております」

「本当に『真実の愛』を願うなら、ディユニ様を正妃に、『真実の愛』を側妃にしておけば良かったものを……と部外者ながら思わざるを得ないな」

「『赤斧帝』を擁護するつもりは皆目ございませんが、マーロウスントに『赤斧帝』が攻め込んだ際に掲げた理由の一つが、ディユニ様が側妃として貶められていた事でしたので……」

「……そのまま続けてくれ」

「はい。

王太子は必死に国を立て直そうとしておりますが、如何せん後ろ盾がありませんので、ブォニート公に国土と支持者の大半を奪われ、青息吐息の現状です。

しかしブォニート公が野心家故にマーロウスント公国の公王を僭称し、挙げ句にホーロロ国境地帯まで我が物にしようとしたため、サンタンカンでは歴史的大敗を喫しました。

そして王家からはロサリータ姫が、公国からはサレフィ姫が帝国の人質となった訳ですが……実際は、ディユニ様亡き後から『公国なる勢力』の人質となっていたロサリータ姫が、そのまま帝国に回されたのです」

「ディユニ様がお亡くなりになってから、公国なる場所でロサリータ姫は不遇な目に遭われていたのだな」

「はい。ですので僕達も奇妙だと感じました。

……今までの情報を精査すれば、ロサリータ姫は虐げてきた側ではなくて、虐げられてきた側なのですから」

分かった、とオレ達は彼らを見渡して、頷いた。

「……知ってはいるだろうが、僕は帝国城でも大した力は持っていない。だがロサリータ姫達を預かっている責任者たるレーシャナ皇后様に、それとなく進言する事くらいは出来るだろう」

「感謝申し上げます!僕達もできる限りに気を配ります故……」

「絶対に無茶はするなよ」

はい、と彼らは一斉に頷いてくれた。

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