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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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第208話 秘めやかな悪意

 「そ、そりゃー、おいらの聞いた噂話が根こそぎ吹っ飛ぶくらいですぜー……。だからロウさんも飲み過ぎで、すっかり駄目になった訳ですぜー……」

帝国第一高等学院への通学途中で、牛車の牛を操るゲイブンは、びっくりした顔をしてオレ達と話していた。

「ああ、そうだ、こっちでも本当に酷かった。……うん?ゲイブンは何の噂を聞いたんだ?」

「こっちは娼婦の姐さん達の噂話ですぜ、闇カジノに新しい遊びが出来たらしいんですぜ」

「新しい遊び?何だそれは……?」

あそこは違法な賭博を日夜やっている。でも遊郭や地獄横町とは『やっている事』が被らないように気を付けているから、『新しい遊び』なんてそう頻繁に登場しないはずだが……?

「詳しくは分からないんですぜ、テオの兄貴。ただ、相当にヤバい遊びらしいんですぜー」

闇カジノと言うだけでヤバいのに、『相当に』だと……?

一体何をやり始めたんだ?

「またロウが落ち着いたら探って貰うか」

「それが一番ですぜ!……おいらも遊郭で小遣い稼ぎどころじゃないんで、早くロウさんには元気になって欲しいんですぜー」

やけっぱちの飲んだくれロウの世話をするしかないなんて、ゲイブンの不幸にも程がある……。



 そのまま帝国第一高等学院に到着してゲイブンに牛車から車椅子に乗せてもらっていたら、何か校門の辺りが騒がしい。様子見に行ったユルルアちゃんがすぐに戻ってきて、

「テオ様、マーロウスントからの転入生同士が揉めていますわ!」



 マーロウスント王国の反王家派がマーロウスント公国を名乗って勝手に独立し、勝手にホーロロ国境地帯に大軍を擁して侵略してきたのを、『逆雷のバズム』率いる帝国軍がサンタンカン渓谷で壊滅させた『サンタンカンの戦い』があったのは、つい先日の事だ。

戦いに勝利したガルヴァリナ帝国は両国に対して和平を結ぶ代わりに、多額の賠償金の支払いに加えて、人質を差し出すように命じた。

どうしてマーロウスント王国にも人質を差し出すように命じたかと言うと、マーロウスントの王国内には相当数の――サンタンカンの戦いの結果如何では公国(仮)に鞍替えしようとしていた者がいたらしい。

今の王国そのものがとても弱体化していて、公国(仮)の抑止力としてはちっともアテにならないからな……。

しかし2代も暗君・暴君が続いた後の帝国では、王国・公国(仮)そのものの討伐が出来るほどの国力も軍事力もない。

故に金と人質を差し出させる事で、一旦は手打ちとしたのだ。


 そのマーロウスントの王国・公国(仮)からそれぞれ姫君が来ているのは、勿論オレ達も知っている。

人質と言っても、基本的にこの帝国では城に軟禁するのではなくて、相応しい学校に通わせ、教育を受けさせて、将来は出身国と帝国との間を繋ぐ人材として育てる風習があるので、めいめいの学力を調べた後で、こうやって帝国第一高等学院に二人ともが所属しているはずだった。

ただ、オレ達とは学年もクラスも違うので、接点は今まで全く無かったのだ。



 ――オレ達の目の前でマーロウスントの言葉で言い争っていた(オレ達の見た限りでは一方的にけんか腰で捲し立てられていた)二人の姫君の内、一方がいきなりもう一方を突き飛ばした事で、遠巻きに見守っていた生徒達も近くで対応に困っていた護衛達も動かざるを得なくなったのだった。

「きゃあああ!?」

と突き飛ばされた方は悲鳴を上げて転んでしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

「サレフィ姫、お怪我は!?」

「保健室にお運びしろ!」

と突き飛ばされた姫君がいなくなったところで、

「もうお止め下さい、ロサリータ姫!」

「流石に今日の行動は目に余ります!」

護衛達が突き飛ばした姫君に訴えた。

しかし彼女は何も言わず、酷く険しい顔をしたまま去って行った。

「……何あれ」

当然、生徒や駆けつけた教師達の印象は――。

「人質で来たはずの姫君よね」

「いきなり言いがかりをつけた上に突き飛ばすなんて、最悪……」

「あれで王族だなんて信じたくも無いぞ」



 「……妙ですわね」

オレ達の乗る車椅子を押してくれていたユルルアちゃんが、小声でオレ達だけに囁いた。

「妙?」

「突き飛ばされた方――公国(仮)のサレフィ姫ですけれども。彼女、少しだけ目が笑っていましたわ」

「国の勢いがあるのは王国ではなくて公国(仮)だからな。後で抗議させるつもりなのでは?」

ユルルアちゃんがオレ達の肩を握りしめる。

細い指に信じられないくらいの力を込めて、少しだけ震わせて。

「……いえ。これは私のただの女の勘なのですけれども、サレフィ姫からは悪意を感じました」

「だとしたら、ロサリータ姫はその悪意に耐えきれずにあんな行動を取ったのは間違いないだろう」

「疑わないのですか?私の勘でしか無いのに……」

「どうして?僕は君を信じた結果なら地獄に堕ちても構わない」

すうっと彼女の指から力と震えが抜けていった……。

「……ねえテオ様。後でロサリータ姫とこっそり話をしません事?」

「出来れば……そうしたい所だが。しかし、彼女の側には常に護衛がいる。どうやって護衛を外させる?」

このガルヴァリナ帝国としては、人質に逃げられても、危害を加えられても困るからだ。

「少し……考えてみましょう」

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