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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Third Chapter

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第207話 獣のごとく吠えた

 「来週は体調不良で欠勤します!」



 凄い顔をしたクノハルが黒葉宮に駆け込んで来た時、丁度オレ達は帝国第一高等学院の課題を進めていたので、

「ああクノハル、良い所に。外国語の問題が分からなかったんだ。トラセルチアの第二公用語の慣用句の代表例についてなんだけれど――」

「来週は!体調不良で!欠勤します!」

般若の顔でグイグイと詰め寄ってきたから、オレ達は思わず仰け反りかけた。

「……な、何があった?」

「誰が!あんな男と!見合いなんて!」

机を引っ繰り返さんばかりの勢いである。

「ちょ、ちょっとクノハル、落ち着いて、ね?冷えたお茶でも少し――」

ユルルアちゃんが入れてくれた冷茶を一気飲みした途端にクノハルはぶちまけた。


 キアラカ皇妃が娘の家庭教師にしたいと言ってきた。

 ついては来週には、ギルガンド・アニグトラーンと見合いをしろと仰せだった。


 「どう言う事だ?何でクノハルとギルガンドが見合いをしなきゃいけないんだ?」

「――ぐあああああああああああああああ!!」

クノハルが吠えた。いやもう、肉を食べる獣のごとく吠えたんだ。

「おい、喧しいぞ」

とたまたま黒葉宮に入ってきたオユアーヴがそのまま腰を抜かしたくらいの剣幕で。

「なっ…………何があった?」

「それが、斯く斯く云々で……」

オレ達が分かっている事だけを伝えると、

「全く何も分からんが……マニイには『吠えないからとても助かる』とでも伝えれば良いのか?」

「マニイ夫人にはね、『お前が側にいてくれて本当に感謝のしようも無い』って伝えた方が良いのよ」

ユルルアちゃんが翻訳すると、オユアーヴは黙って何度も肯いた。

どうにかオユアーヴが椅子に腰掛けると、クノハルは無音通信でいきなりロウの所に繋げた。

「兄さん!来週までにあのセクハラ男を殺してよ!絶対に殺して!」

ロウの声が一気に険しくなる。

『……クノハル、何があった?いや、何をされた!?』

『明日までにって、どうしたのクノハル!?』

突然の事に戸惑っているパーシーバーの声。

奇遇だな、オレ達もとても戸惑っているんだ。

「来週に見合いだって!私あんなセクハラ男と見合いなんてしたくない!キーちゃんが無理矢理命令してきた!」

クノハルがロウにぶちまけた内容から推察するに、


・ギルガンドがロウに付きまとう(これはオレ達も知っている)

・ついでにクノハルにも付きまとう、セクハラする(覗き?)、睨む等々の犯罪行為をする?

・キアラカ皇妃を巻き込んで見合いに持ち込んだ?

・キアラカ皇妃はクノハルを娘の家庭教師にしたいからと二つ返事で許可

・キアラカ皇妃とクノハルは旧知の仲(キーちゃん、クーちゃんの仲らしい)

・クノハルは家庭教師はともかくギルガンドだけは絶対嫌

・嫌すぎてロウにギルガンドを殺してくれと懇願


 『ああ、分かった。すぐに地獄横町に行く』

『駄目よロウ!?何より、もう間に合わないわ!』

「見合いなんだから、難癖を付けてどうにか断れないのか?」

……オユアーヴのいつものトンチンカンっぷりが逆に癒やしになるなんて思わなかった。

オレ達は教えてやる。

「キアラカ皇妃肝いりの見合いを断れる相手ともなると、ミマナ皇后かレーシャナ皇后の命令を受けた者くらいなんだ、オユアーヴ……」

「……」

己の失言について気まずそうな顔をするオユアーヴだけがこの場において唯一まともなのだ。

何て事だ……。取りあえずオレ達はロウを止めた。

「ロウ、地獄横町に行った所で無駄だ。あの『閃翔のギルガンド』を殺しうる暗殺者が存在すると思うのか?」

『だが!』

と打撃音。

『きゃーっ!?ロウ駄目よ、そんなに叩いたら無音通信の機械が壊れちゃうー!!!!』

この通りロウも駄目だし、

「じゃあ毒を手に入れてよ、兄さん!何が何でも飲ませて殺してやる!」

……クノハルはもっと駄目だ。

「まあ!だったらクノハルはしっかりお風呂に入って髪の毛を整えてお化粧もして香水も付けて……」

…………残されたユルルアちゃんの頭には、大きなお花畑が生まれてしまっている……。

控えめに言って、地獄だ。

オレ達は冷静に指摘する。

「たかが毒であの男が死ぬとも思えない」

滅廟では心肺停止状態にまで陥ったのに、すぐに元通りに回復したからな……。

「だったらユルルア様の『劇毒』で!」

とユルルアちゃんを見たクノハルだったが、

「まあ!まあ!お見合いの時だもの、お化粧どうしましょう……!何の香水にして何の髪飾りを付けて……」

肝心のユルルアちゃんの頭が隅々まで桃色のお花畑になっているので、オレ達のように真顔になる。

「生き物を即死させる毒が欲しいのですが」

「そうね、殿方の心を射止める恋の妙薬だって欲しくなってしまうわよね」

「ですから!」

「……クノハル、見合いを受けてくれ」

オレ達は告げる。

もう命令だった。

そもそもキアラカ皇妃から回って来てしまった時点で、こちらから断る余地なんて存在しないのだ。

「見合いの場で口で上手い事やり込めて、向こうから断らせれば良いだろう……?」

「……心底から嫌で吐き気がしますが、はい、と言っておきます」

『そんな……!』

ロウの絶望の声に被さるように、ゲイブンの呑気な声がした。

『買い物行ってきましたですぜー!これで野菜たっぷりの……あれ、ロウさん、どうしたんですぜー?』

『あああっ!?ロウ泣かないで!そんなに泣いちゃ駄目よ!このパーシーバーちゃんがずっと側にいるから……!まるで棄てられた子供みたいに声を上げて泣かないで……!』

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