第192話 正攻法こそ定石
彼らが『凰翼宮』に到着した時、『睡虎』や『裂縫』までもがやって来ていた。
「あららー……。そちらでは……何があったのですかー?」
「帝国十三神将がこんなに雁首揃えるなんてこりゃまた珍しいね」
「……実は」
交互に事情を説明すると、ハルハもトキトハも嫌そうな顔をする。
「こちらではー、斯く斯く云々でしてねー……」
「そりゃ、また。第八皇女殿下がたが不憫でならないよ」
その間。
セージュを下ろしてから、ぜい、ぜいとバズムはしばらく息を整えていたが、落ち着いた所で顔を上げた。
「急ぎお目に掛るぞ!」
「バズムよ、何事ですか?セージュの保護についてはレーシャナ皇后に頼んだはずですが……?」
まずハルハとトキトハとヴェドから報告を受けたミマナ皇后は、一つ頷いた後で、バズムに訊ねた。
「ミマナ皇后陛下、どうにもワシの勘が『これはおかしい』と申しておりまする。
帝国への大逆を企んでおったにも関わらずピシュトーナ家の連中が大人しくお縄に付いたのは、ワシの十八番の――密偵を送り込んで敵軍を混乱させる時によう似ておる……」
恭しく跪いて、老将軍は話し出す。
「……『幻闇』の定時連絡が無く、確認のため明朝に『閃翔』を派遣しました。罠だったとでも?」
「アニグトラーンの青二才ならば十重二十重の罠だろうと容易く食い破りましょうぞ。じゃが、それに消費した時間が問題じゃ。幾ら使えようと、我らはたったの十三人だけじゃ。しかし向こうがそうでないとしたら?」
百戦錬磨の戦人の目をして、彼はミマナ皇后を見上げた。
「ワシじゃったら、動かせる手勢全てで直ちにピシュトーナ家の全ての屋敷を攻撃致しまする。大勢で攻めるは正攻法じゃ、間違いも少のうござりまする」
「……。直ちに陛下に奏上致しましょう。バズムに総指揮を預けるよう申し上げておきます」
御意に、とバズムは承った。
すぐさま皇帝に奏上文書をしたためながら、
「それで……セージュだったかしら?」
ミマナ皇后は平伏して震えている少年に、優しく声をかけた。
「は、はい……」
恐ろしいやら緊張するやらでセージュはひれ伏すしか無い。
「お前、この『オラクル』が見えて?」
彼女は片手で指差したが、おずおずと頭を上げたセージュは不思議そうに首をかしげた。
「ええと、えっと……?」
指差した先には何も無かったのだ。
『ミマナ、この子は確かに見えていませんわよ』
「ひいやーーっ!?」
いきなり素っ頓狂な悲鳴を出してセージュは飛び上がった。不意に、彼の首筋に誰かの指が触れたのだ。反射的に振り返って腰を抜かして見上げた先には――。
「お、お化けーーーーー!!!」
精霊獣『オラクル』がいたのだった。
「『オラクル』、そうやって子供をからかうものでは無いわ」
ちらりと見やってミマナ皇后は呆れた顔をする。
『うふふふ』
「もう、やだ!ブン兄に、会いたい!うわーん……!」
プツンと緊張の糸が切れて泣き出してしまったセージュの頭を、『オラクル』が詫びも兼ねて撫でた時。
……だぁ、ああー……あぶぅー。
その場に『トドラー』が現れた。
ミマナ皇后の膝の上、彼女に向かって無邪気に大きく両手を広げて。




