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【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る  作者: 2626
Second Chapter

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第177話 疑わしきは罰せず、追い詰める

 その一部始終を無音通信でロウはオレ達に伝えてくれていた。

クノハルは安堵の顔をして、こちらの音声が聞こえないように機器を操作してから言葉にする。

「『睡虎』の固有魔法は『心眼』、文献によれば『心眼』の固有魔法は嘘を言えば直ちにそれを見抜くものです。兄が言っている事は全ての事実ではないだけで、嘘ではありません」

「危ない所だった」

あの状況でパーシーバーの存在に勘づかれたら、芋づる式に『シャドウ』の正体まで露呈する所だった。

「多少は怪しまれてはいますが、兄はボロを出すような真似はしませんから。ただ、問題はセージュです。ゲイブンは……もう仕方ないでしょう」

「ああ、ゲイブンの時はどうしようも無いな」

「その時は潔くロウには諦めて貰おう」

オユアーヴの発言にオレ達まで賛同したので、クノハルがムッとした顔をした。

「殿下、それは幾ら何でも無慈悲ではありませんか?」

「僕に無いのは慈悲でなくて権力だ」

「覇気もですね。このような陰気な場所での生活に甘んじられている程ですから」


 あ、相変わらずキツい事ばかり言ってくるな、クノハルは。

 僕達に一番足りないのは、もしや『威厳』なのだろうか……。


 「……コトコカ殿下達に累が及ぶのね」

ユルルアちゃんが悲しそうに呟いた。オレ達は首を横に振って、

「まだ確定した訳じゃない。それに、気になる事がある」

「テオ様、その気になる事とは?」

「仮にピシュトーナ家が黒幕だとしたら、どうして今までトウルドリックがあそこまで誰とも似ていないのを放置していたんだろう?ピシュトーナ家による帝位簒奪に皇統詐称を考えているのが事実なら、その外見でトウルドリックが疑われるなんて――最優先で潰しにかかりそうな不確定要素じゃないか」

「ああ……そう言われれば、確かにそうですわ。化粧なり外科手術なり固有魔法なりで皇子の顔立ちを急ぎ変えそうなものですのに」

クノハルが呟いた。

「もしかすれば、ですが……ピシュトーナ家の中には、帝位簒奪よりも、皇統詐称よりも、恐ろしい陰謀があるのやも知れません。

ピシュトーナの当主ムガウルの固有魔法が、『復元』なのも引っかかる所です……」

「『復元』とは具体的にどんな固有魔法なんだ?」

「文献によれば、『物の状態を最初期の段階に何度でも戻す』固有魔法だそうです」

詳細を訊いたオユアーヴが目を見張る。

「凄いな、失敗し放題じゃないか。未熟な職人だったら拝み倒してでも欲しがるぞ」

「ええ、外科手術の医者も、泣いて欲しがったと記載がありました。ですが……」

クノハルの顔が暗い。

「……また別の本には、『復元』で国が滅んだ、と」

「国が!?」

ユルルアちゃんもオレ達も絶句した。

「固有魔法で国を滅ぼしたなんて前例は聞いた事が無い!どの歴史書だ……?」

「ありもしない古の亡国の歴史家が記したらしいですが、一般にはお伽噺の扱いをされている『娯楽小説』なので、帝国城の書庫にはありません。街の古本屋で二束三文で投げ売りされていた所を、目にしただけです。私も、歴史書の体裁を取った、よくある架空の小説だと思ったのです。幾ら何でも荒唐無稽が過ぎる内容でしたから。

ただし……私達の固有魔法が精神や体を鍛える事によって効果や威力が増すと言うのは、誰もが知る常識です。修練を重ねる事で己の体の魔力の保有量が増すので、より強力な固有魔法となっていく……。

殿下がたも、それは詳しくご存じかと思います」

「ああ、その者の精神や肉体が成人したと同時に固有魔法が発現するのは、そう言った理屈があると知っている。最低限の固有魔法を扱うに足るに相応しく、その体や精神が成熟したからだ、と」

クノハルは声を潜めた。

「その本には俄には信じられぬ内容が記されておりました――固有魔法の発現について、逆にしたらどうなったかの一部始終、です」

「年と共に体や精神が成熟して一定量以上の魔力を保有できる事で発現する固有魔法を、逆……?」オユアーヴも考え込んで、すぐさまギョッとした顔をする。「子供の体に有り余る程の魔力を無理矢理に詰め込んで、逆しまに固有魔法を発現させたとでも言うのか!?

それじゃ『神々の血雫』を着けたのと何も変わらないだろうが!」

「ええ。戦争で負け続けていた、さる太古の国の王族による、我が子らを使った陰惨な人体実験の果て。一人を除いて子供は皆……亡くなったそうです。ただし、その生き残った一人に発現した固有魔法こそが、『復元』だったのです」

「……」

オレ達は目線でクノハルに続きを促した。

「通常の『復元』は人体の傷を元通りに治したり、壊した物品を元通りに直したりする固有魔法でした。なのに――外法を使って虐げ、暴くように発現させたからでしょう、人の領域とは思えぬほどに強力な固有魔法の『復元』が誕生したそうです。それこそ、時間をも復元する程だった……」


 時間さえも『復元』させただと!?ほぼ無敵の固有魔法じゃないか!

 待て。だとしたらどうしてその王国は『ありもしない国』と言われている?


 「しかし、それにはあまりにも重大な代償が付いて回ったのです。その子供の心は――人体実験の果てに砕かれ、焼かれ、捨てられたも同然の扱いを受け、人として壊れたのです。

固有魔法が発現した後、その子が真っ先にした事は、時を復元させ、王族の太祖が――その国を建てる以前に抹殺してしまう事でした」

「……誰が、その歴史書を書いたんだ?」

「存在せぬ王家の太祖の弟、タノン・ドルフェー。生きていればドルフェリス王国が建国された後に兄に処刑されるはずだった男です。

彼はその子供から一切の事情を聞き、更に子供が目の前で跡形も無く『消失』した事で、後世に戒めとして『ありもしない王国ドルフェリス』の『歴史書』を残したそうです。

もっとも、この記録が事実ならば重大な矛盾が生じているので――私も、あくまでも現実味を付与しただけの架空の物語だとは思っていますが……」

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