第166話 速やかに通報したかったのに
「貴様か!?貴様だなアウルガの息子は!!!」変態耄碌露出狂ジジイはロウをいきなり抱きしめたのだ。オレ達はパンツ一枚に靴だけのド変態が登場した上にロウが捕まったのでビビって固まっていた。「あの馬鹿の!あの大馬鹿の息子じゃな!?」
『きゃーっ!?ヘンタイよ!チカンだわ!興奮したヘンシツシャにロウが抱きつかれたわーっ!!誰かロウを助けてーっ!!!いやーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』
パーシーバーが慌てる中、ロウは冷静にジジイを引き離した。
「貴様は一体何処の誰で、俺の親父とは何の関係があるんだ。興奮した男に抱きつかれる趣味はない」
オレ達はその時、このジジイが『逆雷のバズム』だと気付いた。
何でこのよろず屋にまた大物が来るんだ!?
ジジイは驚いた顔で、
「思っていた以上にそっくりじゃな!?一瞬アウルガかと思ったぞい!?」
「一言で言っちまえばアウルガはワシの副官じゃった。戦っても鬼のように強かったが、何よりワシの補佐としてあれ以上に優秀な男はおらんかったわ。じゃがな……彼奴は優しすぎたんじゃ、ただの犬、愚か者にはなりきれんかったんじゃ……」
と、バズムは話してくれた。ロウは懐かしそうに首をやや傾けて聞いていたが、
「親父は俺の事を話したのか、アンタにも」
パーシーバーが小さく呟く、『そりゃあ幾らだって話したでしょうよ、だってロウは……』
「年取って出来た息子じゃ、可愛いくてたまらんとな。見えんように産んでしまったのが不憫じゃ、己の目を一つくれてやりたいとも言っておったぞ」
「……そうだったのか……」
「こんな所で、何ぞ不自由はしておらんか。幸いワシには金がある、金でどうにかなる事なら少しは手を貸せるぞい」
「こんな所だが、それなりに暮らしているさ。しかしどうして『逆雷』程の大物がここに来たんだ?」
金と言う言葉を耳にした瞬間に、パーシーバーが思わず突っ込んでいる。
『ちょっと!?そこは今月の家賃をどうにかするように頼んでよ、ロウ!!!本当に本当に、火の車の真っ赤な赤字なのよーっ!!!だから、お金お金お金お金お金お金お金ぇえええええええええーーーーーっ!!!』
……ギルガンドに付きまとわれる苛立ちが酷くて、色々と金遣いが荒くなっているとは聞いていたけれど、ここまで酷いのかよ。
オレ達は呆れて物も言えなかった。
バズムは日に焼けたひげ面をしかめて、
「贔屓にしとる『パラダイス・ロスト』が忌中のような有様での、こりゃ何じゃとマダム・リルリを問い詰めたんじゃよ。そうしたら貴様の名前が出てきての……。
――おっ!?服をうっかり置いてきてしまったぞい!?こりゃあ、しまったのう!フハーハハハハハハハッ!」
『あれ?服ってパンツと靴以外うっかり置いてきてしまうようなものだったけ?』
『そんな訳があってたまるか!簡単に騙されるな!……この男だけであって欲しい』
「それで……遊郭の幽霊騒動と眠り病の手がかりは見つかったのか?」
服を着てから戻ってきた『逆雷』は、ようやく見た目も厳つい老軍人と言った風情になった。
やっぱり人間、服や外見もそれなりに大事だと思う……パンツ一枚に靴だけは絶対に止めた方が良いぜ。
「ああ、かなり良い所まで来たんだ。だが……問題も出てきてな」
『ええ、「トドラー」がどうして存在しているか、なのよね……』
ロウはオレ達と話し合ってまとめた結論を、『逆雷』に打ち明ける。
「何じゃ、その問題とは。金か」
「信用と信頼だ」
「……ふうむ。秘密にしたい事があるんじゃな?」
「将軍の知り合いに徹底的に口が堅くて頭の良い人間はいないか。皇族だと助かる。ただ、平民にも会える程度の気楽さがある人物じゃないとな、とても話さえ出来ん」
『少なくともこのパーシーバーちゃんくらいにね!』
嘘つけ!パーシーバーこそ、鳥がピーチクパーチクチュンチュンポッポーコケーコッコーのカァーカァーと鳴き騒ぐように、息継ぎの暇もなくしゃべり倒すだろうが!
「ふむ……」少し『逆雷』は考え込んだ。「シューヤドリックなら行けるかも知れん」
「『画伯の皇子』か」
『赤斧帝』の異母弟の一人である。
「彼奴は口も堅いし何より野心がない、絵心があれば平民でも見下す事もない。頭はそこそこ回る。どうじゃ、会ってみるか、ロウ?」
「是非に」
「良し!彼奴は貴様にだってな、ちぃーっとも頭が上がらんのじゃ。敵勢に押されて死にかけた所を貴様の親父が何度も助けてやっていたからな、フハハハ!」
『全くもう!』パーシーバーだけが文句を言っている。『テオが少しでも権力を持っていたら話はとっても簡単だったのに!シャドウをやるのはこのパーシーバーちゃんだって勿論応援するけれども、それにしたって無欲過ぎるんだわ!もっとがめつくなりなさいよ!この世はね、財力と武力と権力で回っているのよ、皇族の癖に知らないとは言わせないわー!ねえ聞いているのーーーーーーーーーーーーっ!?』
頼むから黙れってば!




