第165話 何度もハグ
「その……僕、檻の外に、出るなって言われていたんです」
セージュは話してくれた。
「ずっと、外に出たかったけれど、駄目だって。怒鳴られて叩かれて、凄く痛かったです」
「辛かったな」
ロウはセージュの頭を撫でた。最初は震えたが、やがてくすぐったそうにセージュは目を細めた。
「でも、僕……痛いのが怖くて、嫌で。怖くて、逃げ出したくて……」
「それは酷いな。檻に閉じ込めた上に、固有魔法を持たない子供を殴るなんて虐待だ。鞭打ちしても良いくらいだ」
『何よそれ、絶対に許せないわ!穴という穴に唐辛子の刑よ!いいえ岩塩も投げつけて……』
「えへ、へへへ」とセージュは撫でられて、少し嬉しそうに笑った。「その……あの日、どうしても、外に出たくて、我慢できなくなって。そうしたら、門番が眠っちゃったんです。だから、思い切って逃げて、外に出てみて……でも、何処に行ったら良いかなんて、分からなくて、ウロウロしていたら、マダム・カルカに拾って貰った、んです」
さっきまで総出で遊んでやっていたからか、今は『トドラー』は隣部屋で寝ている。
あれからロウとパーシーバーが聞き込みや調査をして分かったのだが、『スキル:ララバイ』はセージュの意思と、己を見て母親のように自分を構ってくれると「トドラー」が認識した相手――少なくとも自分について他人事のようにたらい回しの噂に変えぬ者――に発動してしまうらしい。
「上手く言えないけれど、さみしいって気持ちなんです」セージュは話してくれた。「あの子、きっと僕と同じなんです。泣いていても、一度も誰かにギュッとして貰えなかったんだと思うんです」
「もうセージュは抱きしめて貰えたのか?」
するとセージュはニコッと笑って、
「ブン兄が、『セージュは可愛いですぜ!』『セージュはお利口ですぜ!』って、何度もギューってしてくれました!」
とすると、オレ達のすべき事はまず『スキル:ララバイ』の解除方法を見つける事、次いでセージュの出自を突き止める事だ。
セージュは軟禁されていたらしいが、セージュの血筋について知っている者がそうさせていた可能性がある。
「後の方は嫌な予感がするが、やるしかないな」
「陰謀渦巻くのがこの世の常だ、避けては通れない」
……とオレ達が内心で言い合っていた時。
「おい!ここにアウルガの息子がいるのか!?」
パンツ一枚に靴だけ履いた耄碌変態露出狂ジジイが『よろず屋アウルガ』に飛び込んできたのだった。




