第163話 ここで喧嘩!?
「ああ、ああ、これは将軍閣下。そうですねえ、それも悪くは無かったかも知れません」
と文官は何よりもギルガンドの苛立ちをなだめるように言った。
「犯罪なんぞ二度とやれんようにワシが見張ってやるわい!」
「何とも有り難い事です。ただ今回はあくまでもお試しだったので、ホーロロ国境地帯で難儀されている将軍閣下にお願いするまでも無かったのです」
「あんな弱兵相手に難儀なんぞしとらんわい!ワシをそこの青二才の雛小僧と一緒にするのか!」
「何だと!?」
火打ち石がぶつかって、火花が散った。
耐えきれずに「ぎゃっ!」と哀れな悲鳴を上げたのは机に向かっていた恰幅の良いこの文官――帝国十三神将が一人、『財義のロクブ』である。
「ああ、ああ、閣下!ギルガンド、君も!ここでは止めてくれ!一昨日書類整理をしたばかりなんだ!外でやるなら一寸の邪魔もしないから!」
「ワシは外まで待てるがな、この生まれたての黄色いピヨピヨには難しそうじゃのー」
「誰がピヨピヨだ、この老いぼれ!」
導火線に火が付いた。爆発まで秒読みだ。
「ああ、もう、もう!お願いだ、外でやってくれ!頼むから!」
武術の腕前はからっきしのロクブはオロオロとして泣き出しそうになっていたが、ここで救いの女神が登場する。
「ロクブ、ご免なさいな。先触れも無しに。ただ、そろそろ例の結果もまとまってきた頃だと思いまして……」
幼い皇女を大事に抱きかかえたキアラカ皇妃が、数多の女官や宦官を引き連れてやって来たのである。
「ああ、ああ!キアラカ皇妃様!(何と素晴らしい時にお越しなのでしょうか!)」
ロクブは思わず椅子から立って平伏していた。
「まあ!」と彼女もいがみ合う二人に気付いて、早速に叱責した。「もはや争うなとは言いません!けれど務めの最中のロクブを巻きこむとは何事ですか!」
その時に皇女キアラーニャが大声で泣き出したので、『おお!おお!これは何と最高の冷や水であらせられるか!』とロクブは心から有り難く尊く感じたのだった。
「ああ、キアラーニャも泣いてしまいましたわ!……おお、よしよし、こんな厳つい男共がいがみ合っていたら怖いですものねえ……。
ほら、直ちに外に行きなさい!今すぐに!さっさと!出ていくのです!」
「「……はっ」」
追い払われた負け犬のような男二人が、尻尾を巻いて外に出て行った。




