第15話 ロウは苦労人
精霊獣『パーシーバー』が従っている事からも分かるが、ロウは皇族の血を引いている。
ロウの戸籍上の父親は、戦時中に『赤斧帝』の暴虐を諫めて殺されてしまった――優秀な武官アウルガ・ゼーザだった。
が、それ以前から母親は浮気していたのだ。しかも当人も覚えていないくらいの大勢と。
その中の一人……ロウの実の父親は誰なのか分からないが、皇族の、それもかなり身分が高い『誰か』である事は確定している。
だがロウはそれを知ってもロウ・ゼーザと名乗り、12の年に母親とは絶縁して貧民街で暮らすと決めた。
『ロウは生まれつき目が見えないでしょ?』
パーシーバーはロウの代わりのつもりなのか、その時だけは黙りがちに語ってくれた。
『盲目の子なんてと一度も抱きかかえもしない母親より、無償の愛を注いでくれたアウルガが、ロウは大好きだったの』
『目に見えるモノだけが大事なモノじゃないって、ロウは代価を求められない愛の中で理解したのよ』
『その大好きな父への裏切りなんて、たとえ相手が母親だろうと……いいえ、なまじ血の繋がった母親だからこそ一生涯許せるものじゃないわ。そこは理解できるでしょ?』
『第一、もしも「俺も皇族です」なんて名乗り出たら、否応なしに宮中の政争に巻き込まれて、ロウはあっという間に殺されてしまうわ』
『まあ、このパーシーバーちゃんがいる限りロウに手を出させはしないけれどもねー』
『パーシーバーちゃんの知覚感覚をロウと接続共有させている限り、他の人間より圧倒的に見えて聞こえて匂って感じられるんだからねー!』
ロウはパーシーバーの存在を隠すために杖を普段は持ち歩いているが、固有魔法が『振動』なのもあって――人体の『鼓動』を感知してその場所に何人潜んでいるかをすぐ突き止めたり、暴力沙汰に巻き込まれれば『衝撃派』を体から放って周囲の人間を気絶させたり、オレ達の間でしか通用しない無音通信をクノハルに頼まれて開発したりと、ロウ単体の時点で相当な猛者である。そのロウと契約している精霊獣パーシーバーは、生物の『知覚』と『感覚』、いわゆる『認識』や『認知』に関する全てを掌握する『スキル:センサー』を持つのだ。
仮にロウが皇族貴族として生きていたら、間違いなく皇太子の最大最強の忠臣にして功臣『帝国十三神将』の中でも上の方に名前を連ねていたとオレ達は考えている。
これでロウ達が堕落して人を毒や悪意で傷付けるような連中だったら、いずれはオレ達の敵になったかもしれないが、ロウは産みの母親が絡まなければいつも冷静な常識人で、盲目だと馬鹿にされたり疎まれたり、散々な苦労を重ねても真っ当に前を向いて生きている人間だ。
だからさ、余計にイルン・デウをオレ達は気に入らないんだ。
ロウのような人間を知って見ているからこそ、不愉快極まりない存在だとさえ思う。
――助けて欲しいとも辛いとも言えない癖に、独りよがりな毒ガスをまき散らすんじゃねえよ。




