第150話 世はなべて事もなし③
案の定と言うべきか――『赤斧帝』による虐殺と破壊にあった、とある村の美女がベリサの母親だった。当然ながらベリサは誰からも愛されなくて、精霊獣『スレイブ』と共に不遇な毎日を送って不満を募らせていた時に、『乱詛帝』の呪いが発現して――。
大怪我を負ったベリサの方も素直に己のやった事を白状しているらしい。
が、帝国治安局も『V』の正体がここまで幼い少女だとは思っていなかったらしく、戸惑っているそうだ。
「わたしをあいしてくれた『スレイブ』に、わたしはひどいことをしたんだ……」
「あいしてくれないおとうさんにむちゅうになって、いちども『おとうさん』ってよばなかった……」
と、寝台の中でずっと泣いているらしい。
もうベリサは自力では歩けない。『タイラント』の一撃を受けて、腰から下が――オレ達のように自力では動かせなくなってしまったのだ。
「……被害者と加害者の違いについて、つくづく考えてしまうよ」
テオは物憂げにそう呟いたので、オレは答える。
「正義について考えるのと同じさ」
「正義か……正義とは何だ?」
「考えすぎると動けなくなるし、何も考えなかったら堕ちてしまう」
「そう、か」
上手くオレ達も色々を飲み込めないでいたら、ユルルアちゃんがオレ達に寄り添ってくれた。
その温もりが――オレ達が孤独ではない実感がとても嬉しくて、酷く安心できた。
「テオ様。私は何処へでも、何処までもお供いたしますわ」
「ユルルア……」
「テオ様はテオ様の御意志のままに進まれてよろしいのです。天空の帝たる太陽では無いかも知れませんが、まるで影のように、人々の心の中で『シャドウ』として息づいているのですから」
「……ありがとう」
「うふふふ」
ユルルアちゃんはオレ達に頬をすり寄せた。優しくて甘い香りがした。




