第149話 世はなべて事もなし②
破壊された帝国城の大朝堂の太極殿を立て直すにあたって、働く人員が大勢必要になった。貧民街の住民にも働き口が回ってきた事で、少し貧民街の状況が良くなったらしい。
再建までにしばらく時間がかかると言う事で、太極殿の主だった政治機能は仮設の建物や帝国城の他の建物を間借りしてどうにか回っていた。
そのため、安全のため皇族はしばらく後宮から帝国第一高等学院の空いていた寮を丸ごと貸し切って、そこで暮らす事になった。
……オレ達は宛がわれた寮の一室で、ヒビの入った仮面を見つめていた。
「オユアーヴは直せると言っていたけれど……どうする?」
「……どうしたものかな」
「無理したから、『シルバー』&『ゴースト』も修理に時間がかかるらしいし……」
「それに……」
「ケンドリックと……何よりベリサが気になるんだろう、相棒?」
ケンドリックは己が公開処刑される事を伝えられても動揺一つ見せなかったどころか、『済まなかったとリュードリック(善良帝の名前)やヴァンドリックに伝えてくれ』とまで言ったそうだ。
「お前にも迷惑をかけた。今更謝って済む事では無いが……」
「ケン様……」先の皇后アマディナは牢獄の鉄格子の向こう側で泣いていた。「お諫めできなかった私にも罪はございます」
「莫迦を言うな、君は立派な皇后だった。どこに責められる謂われがある」
「私は我が子を捨てました……!立派でも何でもありませんわ」
「案ずるな、君の罪は償えるものだ。いつかあの子達が君を許してやっても良いと思う日まで待ちなさい。きっと大丈夫だよ」
「……はい。その……ケン様、これを」
彼女が密かに差し出したのは毒の丸薬であった。
「受け取れない」
「ですが!」
「私は臣民の前で処刑されねばならない。それがこの国の司法の判断ならば私は守らねばならぬ」
「差し出がましい真似をいたしました。……ケン様、さようなら」
「さようなら、アマディナ」




