第14話 よろず屋アウルガ
ロウの営んでいる『よろず屋アウルガ』は貧民街の中では割と治安の良い区画にある。借金してまで引っ越したのだ。クノハルの教育と将来のために。
と言ってもすぐ近くに遊郭はあるし、ここを富裕層が好奇心に釣られて一人で彷徨こうものなら間違いなく引ったくりか追い剥ぎに遭うだろう。
治安がそれでも比較的マシだと言える原因は、帝都の富裕層とは限りなく薄く果てしなく遠い血縁関係がある住民が、この区画には数多く居住しているからだった。
『運が良ければコネで富裕層の召使いや下働きに雇って貰える可能性があるし、見目が良ければ愛人か妾にはなれるかも知れない』と言うだけなのだが、これが侮れない。
どれほど努力しても絶対に報われない事が確定しているとなれば、人はあっさりと堕ちてしまうのだから。
「……テオか」
ロウ達は夕暮れの中、埃っぽい部屋の中で何かをやっていたが、オレ達に気付いてこっちを向いた。
「ああ。何している?」
『家計簿!今更になってようやく記帳していたのよー。いやー今月も赤字ギリッギリでねー、困っちゃうわよね!』
ロウの精霊獣『パーシーバー』が返事をした。
口から生まれたのかと問い詰めたいくらいに、喋る事が大好きな精霊獣である。外見は異国のお姫様のような可愛らしくキラキラした格好をした小さな女の子だが、これはオレ達にしか見えていない。基本的に、精霊獣は同じ精霊獣を従えている者同士にしか存在を感知や認識できないのだ。
『これもさ、そもそもロウが派手にお金を使うから悪いんだよ?情報収集だからって遊郭に行ったりさー、違法カジノで負ける癖にギャンブルしたりー。ギャンブルに弱くてなかなか勝てないのにそれを必要経費だなんて言うから本当に呆れちゃうよねー!』
「黙れ」
『嫌ですぅー!そもそもこのキュートでラブリーでミラクル美少女なパーシーバーちゃんに、遊郭での男と女のアレコレソレドレを見せつけて聞かせて挙げ句嗅がせている癖にぃー、自分の都合が悪くなったら黙れなんて!そうよ、DVよ!DVよ!これはDVよーーーーーーーーーーーー!!!きゃー、ウルトラ美少女のパーシーバーちゃんがロウにDVされちゃったわよーーーーーーー!!!』
オレ達が言った。
「悪いが少し黙れ」
『えー、仕方ないなー!』
むくれつつも『パーシーバー』は口に手を当ててくれた。
「ロウ、イルン・デウの件だが」
「……家から、人体の腐敗臭がした」
「いつから?」
「まだ『パーシーバー』くらいしか嗅ぎつけられない。昨日、暑かったからだろう」
「他に異常は?」
「家がゴミ屋敷になりつつある」
「では、イルン・デウの母親は、もう……」
「……。半年以上、姿が見えないらしい」
「最短で半年か」
生存している可能性は限りなく低くなってしまった。
「『パーシーバー』に生存探知もして貰ったが、反応が無かった」
分かった、とオレ達は頷いた。
「今夜、決着を付ける」
「周辺一帯の遮断は……いつも通り聴覚と視覚と嗅覚で良いか?」
「頼む」
『わああ、また「シャドウ」に頼まれちゃったわーーーー!パーシーバーちゃん頑張っちゃうわよー!』




