第141話 Slave of Love
……今でも覚えている。
その子は死にかけていた。助けを求めていた。悲しいくらいに親の愛情を求めていた。
かつて災害に巻き込まれて死んでしまった、俺の娘とそっくりの面影を見て、あの時どうしても見つけられなかった娘がまた帰ってきてくれたような気がして、俺は思わずその子を抱き上げて温めたのだ。
娘にしてやれなかった事を今度こそしてやりたくて、その子がやりたいと言った事は何でもやらせた。欲しいと言ったものは何だって手に入れようとしてきた。
そうやって俺はその子と一緒に生きてきた。
この命をかけて愛していたと信じている。
でも……いつから間違っていたんだろうか?
太極殿が破壊されて、立ちこめていた粉塵がどうにか落ち着いたのは……静かに雨が降り出したからだ。月が明るく照っているのに、どうしてか――ぽたり、ぽたりと降り注ぐ。
「うう……ううっ」
ベリサはどうにか身を起こした。彼女は精霊獣『スレイブ』の腕の中にいた。
『良かった……無事か、「V」』
「う、うん。……お父さんは何処!?そうだ、皇太子達を殺さなきゃ――」
『……なあ、「V」』
いつになく優しくて、そして何かが空っぽな声。
思わずベリサは精霊獣の顔を見つめた。
『ごめん、な……』
「どうしたの『スレイブ』?」
『……俺だけは、誰からも愛されなかった、おまえを……愛して、やりたかった』
「『スレイブ』……ねえ、どうしたの?」
『でも……ごめん、な……もう、何も……叶えて……やれない……』
ようやく、ベリサは気付いた。
己の魂、存在の半分がめりめりと生きたまま引き裂かれていく――永訣の感覚に。
見れば『スレイブ』の体は飛んできた瓦礫や巻きこまれた爆発によって、もはや上半身しか残っていなかった。
「『スレイブ』!?駄目だよ、死んじゃ駄目!!!」
『……幸せ、に……』
スレイブの体が光の粒子になって消えていく。
「嫌だ!ずっと一緒だって言ったじゃない!なんで、なんでわたしより先に死んじゃうの!!!!?」
ベリサは悲鳴を上げてすがったが、『スレイブ』は最後に微笑んで――この世界から跡形も無く消失した。




