第138話 敗れた女
『赤斧帝』には数多くの后、妃、夫人、愛妾がいたが、中でも格別に愛されたのがアマディナとアーリヤカである。
皇帝から与えられた地位によって、皇后から愛妾までランクがあるのだが、その中でも頂点に君臨する皇后だった。
特にアマディナは皇太子妃だった頃から常に『赤斧帝』に寄り添い、支えていた。
『赤斧帝』も美しく聡明で穏やかな彼女を誰よりも寵愛し、ヴァンドリックが生まれた時はこれ以上無く大喜びして、3つの時に皇太子の地位を授けたほどだった。
しかし『赤斧帝』が病の後で凶暴になった頃から次第に寵愛が失われてしまい――それまでは疎んでいたアーリヤカを狂ったように寵愛した事がきっかけで、やがて後宮の女主人の座を追われ、おまけに他の妃や夫人、愛妾達からも徹底的な嫌がらせを受けて心を病み、俗世を離れて神殿に入ってしまったのだ。
――我が子二人を伏魔殿の後宮に置き去りにしたまま。
「いますが、何の用事ですか」
テオが冷たい声を出す。
皇太子だったヴァンドリックでさえアーリヤカ達から何度も命を狙われたのだ、ましてやテオは……。
「……ごめんなさい」
戸の向こうでアマディナは泣いているらしい。すすり泣く声が聞こえる。
「詫びを入れれば受け取られるとお思いか」
「……っ、うう、うう……っ!」
「僕達を先に見捨てたのは貴女だとお忘れか」
「………………っ、うう……」
「精々神々の御前で許しを請うとよろしい。神々が許そうとも僕は貴女には会わないが」
「テオ……テオ……っ」
「二度と僕の邪魔をするな。さようなら」
そう言ってテオはオレに「行こう」と言った。
「良いのか?本当にこのままで」
「少なくとも、解決するのは今では無いさ」
テオ、と思わずアマディナが戸を開けた時には布団は丸まっていて、それだけでどれほどに彼女が我が子に拒まれているかを――ありありと思い知らされたのだった。




