第132話 無謀無策
無人の野を好き勝手に歩くように、『赤斧帝』はかつて見知った帝国城を歩いて行く。『タイラント』は涎を垂らしながら、
『ころすまだ?まだ?ころすころすころすまだ?』
「何、すぐさ。それもたっぷり、だ」
『赤斧帝』はカラカラと嗤って、大広間の扉を押し開けた。
彼が気付いた時には扉に仕込まれていた罠が作動して己の体を無数の投げ槍が貫き、柱に縫い止められていた。
「今だ、放て!」
城の中のあちこちに隠れていた親衛隊が姿を現し、精霊獣のステータスを下げる毒薬を塗り込めた矢が放たれ、見事にタイラントの脳天に命中する。
ぐらり――とタイラントの巨体が揺らいで地響きと共に倒れたが、誰も警戒を解かずに慎重に動向を伺っている。精霊獣を殺せたり、動きを止めたりできる毒薬は存在していない。あくまでもこちらの攻撃が通りやすくするだけの毒薬なのだ。
「第二矢、用意――放て!」
『いくら我が父であり先の帝であろうと、もはや天下のために生かしておいてはならぬ。精霊獣と共に見つけ次第に誅殺せよ』
「第三矢、用意――放て!」
見る見る矢だるまになっていく精霊獣『タイラント』だったが、そこで親衛隊の隊長は己の致命的な失態に気付いた。
――どうして反撃しないのだ?まさか――ヴォイドの、
直後、天井を踏み抜いて『赤斧帝』を肩に乗せ、上から降ってきた本物の『タイラント』の巻き添えにあった彼らは、しまった、と悔やむ事さえ――ついぞ出来なかったのだった。




