第129話 Vの素顔①
「おとうさん、おんぶして!」
そうやってせがむと少し困ったような顔をして父親は立ち止まり、体をかがめてから、よいしょ、と娘をその背中に背負ってやるのだった。
その雰囲気がとても穏やかで平和そのものだったので、道で行き交う誰もが『平民の父娘が夕方の散歩でもしているのだろう』と彼らに全く警戒しなかった。
「ねえ、おとうさん」
「どうしたんだ、ベリサ」
「からだ、もういたくない?」
「ああ。すっかり痛くないよ。何年も『滅廟』で身動きも取れなかった時はこのまま終わるのかと全てを呪い、憎んだけれども……もう、私達は自由だ」
『じゆう、じゆうじゆう!じゆういい!』
父親の影から声がした。
「えへへ、わたしと『スレイブ』がまっさきに『タイラント』をかいほうしてあげたのよ。しんでんのなかにいるのはさいしょに『神々の血雫』をみにつけたにせものなんだからね!」
「ああ、私の血を分けた他の子と違って、ベリサは本当にお利口さんだ」
父親は体を優しく揺らすと、娘ははしゃいだ。
「うれしい!わたしずっとおとうさんがほしかったの。やさしくてつよくてかっこいいおとうさん。だいすきだよ!」
「ああ、私もベリサが大好きだ」
「ね、『スレイブ』もおとうさんがだいすきだよね?」
『……』
少女の影からは沈黙しか反応が無い。
「『スレイブ』?」
少女がもう一度訊ねると、
『……済まない、少し緊張していたようだ、「V」』
「だいじょうぶだよ、『スレイブ』。だってしんでんにはギルガンドだけじゃなくてヴェドもいたんだよ?やっかいなれんちゅうがむこうにいるいまが、いちばんのねらいめじゃない」
『……分かっている、「V」』
「でしょ、おとうさん。おとうさんと『タイラント』がいればなにもこわいものなんてないものね!」
「そうだよ、ベリサ。私達こそが恐怖なのだから、何も恐ろしくなんて無いんだよ」




