第12話 クノハル・ゼーザは不屈の女②
「貴方がロウさんね?話があるの」
そこに間に合ったのがユルルアちゃんだった。オレ達が丁度、『シャドウ』として活動を始めるに当たって活動拠点や情報網を作り上げていた所だったのだ。
ロウと旧知の者をユルルアちゃんの実家で雇っていた所から始まって、ロウ達の持つ貧民街での人脈や情報網を提供させる代わりに試験の費用を持ったら、クノハルは何と殿試を一位で突破した。
会試の更に上にある殿試は毎年の競争率及び倍率が目を疑うような値だ。狂気か悪夢のような数値だとオレ達は思う。
その代わりに、突破できるだけで最上級官僚のエリートコースが確定する。
それをまさか……。
ロウは男泣きに泣いていた。報われた、と言って泣いていた。クノハルが報われた、と。
良かったわね、とユルルアちゃんももらい泣きをしていた。
ただ、そのクノハルがよりにもよってオレ達の黒葉宮に左遷されてくるとはその時は本人以外には予想もしていなかった。
「徹底的に忖度が出来ない女の真似をしたので」
オレ達の異母兄の一人相手に『頭が悪いのですか?』って言い放ったらしい。
……ちなみに言うまでも無いのだが、その異母兄って皇族だ。
不敬罪でクノハルの首が物理的に飛ばなかったのは、それでもクノハルが殿試を一番で突破した逸材だった事と、その異母兄が少し『問題あり』なヤツだったので皇太子達が庇ったから、らしい。
「殿試を突破したのに、勿体ない」
オユアーヴがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「あれは兄に仕送りをするために受けただけです。第一、もう兄が絡んでいる案件なら、私がいた方がやりやすいでしょう」
「でも、クノハルまで……」
ユルルアちゃんがためらったが、クノハルはさっさとオレ達の前に立った。
「それで、テオドリック殿下。人目から隠れて何をなさるおつもりですか?」
「僕はもう歩けない」オレ達は口にした。「この黒葉宮で一生を終えるつもりだ」
「その一生の間に何を求めるのですか」
オレ達はニヤッと笑った。
「『ガン=カタ』の極致だ」




