第128話 あぶり出し
帝国治安局による大々的な捜査の手は、帝国第一高等学院の全敷地内に及んだ。教職員と生徒から押収された『神々の血雫』の数は合計10以上にも及んだ。
その所有者の大半がサティジャと同学年の取り巻きの大貴族の生徒や、彼女を贔屓にしていた教職員であった。
彼らは『魅惑』と言うサティジャの固有魔法にすっかり心を奪われていたが、拷問を受けるとしばらくして正気を取り戻し、サティジャが『V』の言う事を聞かずに取り巻きの彼らに『神々の血雫』を配った事や、それに苛立っていた『V』が聖奉十三神殿を狙っている事などを自白した。
更に治安局は、帝国第一高等学院の寮の中で、使われていないはずの一室に最低で二人――何者かが長期間、寝泊まりしていた痕跡を発見した。
「まさか帝国第一高等学院の寮に、『V』とやらが潜んでいたのか」
驚いたものの、皇太子はすぐさま下知を飛ばした。
「『幻闇のキア』が聖奉十三神殿を見張っているはずだが、直ちに神殿の護衛を倍にせよ。親衛隊より数を割け!」
「それでは殿下の御身が危うくなります!」
ミマナ姫が慌てて止めたが、ヴァンドリックは引かなかった。
「ミマナ、聞け。私の代わりの皇族はまだ残っている。叔父上とて周りに置く臣下さえ誤らねば正道を歩まれるだろう。
だが仮に『赤斧帝』の上に『タイラント』までが復活しては、この帝国だけでなく大陸全土から命ある者が根こそぎにされてしまうだろう。
……私達が『赤斧帝』と『タイラント』を封印する際に受けた暴言が、現実にされてしまうのだ。為政者として我らは、それだけは防がねばならない」
平常時ならば親衛隊の補充も出来ただろうが、『赤斧帝』の悪行の尻拭いとしてホーロロ国境地帯での治安維持のために派兵している現状ではそれも難しかった。
そして、2代も暗君が続いたため、臨時で増税して兵を増やすと言う事も出来ないのだった。この場はしのげても後々の政への影響があまりにも大きすぎる。
「でしたら!……ここは親衛隊では無くギルガンドを派遣するのは如何でしょうか。彼ならば過たず一騎当千の働きをしてくれます」
レーシャナ姫が提案すると、キアラカまでも大きな腹を抱えて『お気持ちは分かりますがどうかレーシャナ様のご提案をお受け入れ下さいませ』と泣きながら懇願した。
「――出来ぬ。済まぬ。否、ギルガンドも向こうに派遣すべきであったな」
キアラカがとうとう泣き伏せたと思ったら腹が痛いと言い出し、慌てて医者が呼ばれて、彼女は退出させられた。
愛する男が覚悟を決めているので、ミマナもとうとう腹を括った。
レーシャナ姫にキアラカをよく頼むよう告げてから、帝国の未来の主の前で粛々と控える。
「殿下……ならば『オラクル』と共に我が命尽きるまで御側におります」
『分からないわ……』か細いオラクルの声がした。『未来が分からない……ああ、まるで……暗い闇夜の中にいるようで……何も……』




