第120話 無自覚
お互いが帝国城に務めている者なので、いつか運悪く遭遇するかも知れない可能性はお互いに分かっていた。
だが、まさかこの場で出くわすとは――と二人は同時に運命を恨んだ。
「それでゼーザ君、私の部下の一人になるつもりはまだ……」
「ありません」
「私は君の才覚を見込んでいるのだ。君はゆくゆくはこの帝国の政治の中枢を担う一人となるべき逸材だ」
「何度でも謹んでお断りいたします」
「女だからだと遠慮しているのか?そんな理由で君を侮る者には私が徹底的に思い知らせよう。どうか君には未来の私の最側近になって貰いたいのだ!君にはそれほどの力量がある!」
『賢梟』がクノハルを呼び出して、熱烈に口説いている最中に――軍用外套を翻しながら、軍帽も取らずにギルガンドが入ってきたのだった。
「フォートン。キアラカ皇太子妃殿下の御懐妊に伴う特赦についてレーシャナ皇太子妃殿下がお呼び――っ!?」
「っ!?」
「ああ、ギルガンドか。このゼーザ君こそが私がいつぞや話した類い希なる人材だ。どうにかして引き抜きたいと、こうしてまた頼み込んで――」
そこまで紹介してから彼はようやく、二人が互いを因縁の親の敵のごとく睨み合っているのに気付いた。
「どう……したのだ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
地獄のような空気にたまりかねて、『賢梟』は狼狽えつつも声を振り絞る。
「い、一体何が、あったのだ……?何が、」
二人は同時に彼に向かって叫んだ。
「何もありません」
「何でもない!」




