第119話 見合い(潜入調査・完了)
「この『神々の血雫・戒』は面白いわね?」
ヌルベカとサティジャは美しく微笑みながら言う。
「ええ、お母様。一度ヴォイドになっても、人の姿に戻る事も出来るなんて……とっても面白い『首輪』ですわよね」
「しかも身に着けさせた者の言う事を素直に聞くだなんて……。ねえ、サティジャ。明日はギルガンド様に必ず『首輪』を着けるのよ?心配しなくて大丈夫、殿方は寝台の中に誘い込めばあっと言う間に警戒を解いて、とても無邪気で可愛らしくなる生き物だから」
「でもお母様……ねえ、わたくしはとても美しいでしょう?お母様の次に」
「そうよ、だからギルガンド様はあくまでも愛玩動物の一匹になさいな。貴方のその美しさに釣り合うのは、この国の皇后の地位だけなのだから」
二人の眼中にはもはや己の存在など無いのだと知った人物は、ヴォイド達とにらみ合った挙げ句に、
「…………クソ。分カッタ、『スレイブ』」
そう吐き捨てて行方をくらませた。
「この『閃翔のギルガンド』を!首輪を付けて飼い慣らそうとは良い度胸だ!」
その刹那――窓から飛び込んできたギルガンドが鮮やかな太刀筋で4匹のヴォイドを絶命させ、念願叶って軍刀の切っ先を二人に突きつけたのだった。
帝国治安局が門番を捕縛して一斉にブラデガルディース家に突入してくる、その大騒ぎを引き連れて。
「離れの地下室の壁の中に大量の『神々の血雫』が埋め込まれて保管されていた。罪を認めて抵抗せずに牢獄に入れ」
ヌルベカとサティジャが青くなった。サティジャは叫んだ。
「まさか、まさか最初から――!?この裏切り者!わたくし達を弄んだのね!」
「さ、サティジャ」ヌルベカが娘に呼びかけた。「後は頼んだわ」
母親に突き飛ばされて転んだサティジャが、ギルガンドの強烈な一蹴りで壁に叩きつけられて絶息すると同時に、投げた軍刀がヌルベカの足を貫通して床に縫い止めた。
――一拍おいて、引き裂けるような悲鳴が上がった。




