第118話 見合い(潜入調査・状況)
「ギルガンド殿は、サティジャの身が気になったそうで、明日すぐにでも見舞いたいと使者をまた送ってこられたぞ!」
サロフは美しい愛妾、愛しい下の娘、賢く貞淑な妻、息子、そして上の娘相手に自慢そうに言った。
「まあ!何て情熱的なんでしょう。『閃翔』と聞いて猛々しい方かと思っていましたが、細やかな所もお持ちでしたのね」
「ええ、ここまで積極的だなんて、この見合いは間違いなく上手くまとまるわね」
上の娘と妻は嬉しそうに話し、息子は大らかに笑って、
「これならば、サティジャがアニグトラーンに嫁いでも大事にして貰えるだろう!」
「うむ、うむ。我が家にとって大変な慶事だ!」
ほほほほ、はははは、とサロフ達は楽しそうに笑い合う。
「出来ればサティジャが嫁いだ後で、子を連れて遊びに来た時のために『離れ』を空けてやりたいものだな」
何気なくサロフが口にしたが、その瞬間にサティジャが軽く手を打ち鳴らすと、
「……。はははは、少し気が急いたようだ。あの『離れ』にはブラデガルディース家の先祖伝来の『家宝』が数多安置されていると言うのに」
「そうですわ、旦那様」ヌルベカはゆったりとした口調で続ける。「何もかもこのままで良いのですから」
「ねえ、お母様」サティジャがヌルベカに甘えてきた。「わたくし、ギルガンド様を心から愛してしまいましたの。『家宝』を使って、ギルガンド様もわたくし達の家族にしても良いかしら……?」
「まあサティジャ、それはとても良い考えだわ。美しい妾の娘だもの、きっと上手く行くわよ」
「お母様、大好き!どうかいつまでも美しくあらせられて下さいまし……」
――その場に異物が出現した。
「オイ、コレ以上『神々の血雫・戒』を勝手ニ使ウナ!」
正体不明の小柄な人物が離れのある方角からやって来たのだ。
が、サロフ達は気付かない。存在に気付いている様子がない。
「全く私は幸せ者だ、こんなに良い家族に恵まれて!幸せすぎて涙が出そうだ」
「まあ旦那様ったら、ほほほほ」
「お父様ったら、ほほほほ」
「父上も涙もろくなられましたな、はははは」
その人物の方を見たのはヌルベカとサティジャだけだった。
まるで人形劇で操られている人形のように幸せな家族の談話を続ける4人とは裏腹に、
「どうして?離れは我が家のもの、我が家に置かれたものは我が家のものでしょう?」
と年に見合わぬ妖艶な唇から、氷よりも冷酷な言葉をサティジャが並べる。
「そうよ、サティジャ。美しくないものの言う事なんて耳を傾ける必要は無いわ」
ヌルベカもまるで相手にしていない。
「はい、お母様。――さあ、さっさと出て行って下さいな、子鼠さん」
「コノ、言ワセテオケバ調子ニ乗リヤガッテ――!」
人物は激怒したが、その瞬間にサロフ達4人が椅子から立ち上がった。
ご丁寧に、揃ってヴォイドの姿に成り果てて。




