第117話 見合い(潜入調査・進展)
「……何があった、『閃翔』」
帝国治安局の局長『峻霜のヴェド』は、局長の執務室に来て盗聴装置である『音の欠片』の片割れを彼に渡すなり窓から飛び出していってしまい、しばらくして全身ずぶ濡れで窓から再び入ってきたギルガンドの尋常ならざる様子に、つい声をかけていた。
「まずは報告だ。再び『音の欠片』をあの屋敷の各所に仕込んだ。見取り図を出せ」
「何処だ」
「ここと、ここ、それからここと………………最後に、サティジャの寝室だ」
「姫君の寝室か。どうやった?」
「見舞いの品と偽って花の蕾の中に。そして今回の報告だが……」
報告を聞いた『峻霜』は珍しく顔をしかめた。
「よく貴様が耐えたものだ」
「洗ってもあの甘ったるい香りがまだ染みついている。泥と返り血の方が遙かに好ましい」
渡された手拭いで顔や頭を掻きむしるように拭いている所為で、特殊な化粧が取れて額の青あざがむき出しになったギルガンドに、『峻霜』は告げた。
「次回の見合いについてだが、明日にでも申し入れてくれ。早ければ早いほど良い」
ギルガンドは冷静さを取り戻した。
「……動きがあったのか」
「帝国第一高等学院で密かに『神々の血雫』が蔓延っているのは知っているだろう」
「ああ」
「潜入調査員が急ぎの知らせを送ってきた。学園に通う皇族の方々に無理矢理に『神々の血雫』を着けさせヴォイドに貶めようとの企みがある、と。誰よりも狙われているのはあの第十二皇子殿下だ」
「首謀者は?」
「それが分からないらしい。貴様も戦った『V』が全ての代理人だそうだ」
「では今から使いを送り、明日には見舞うと偽ってブラデガルディース家の中に入り込む」
「理由を付けて離れの中を検めてくれ。後は我々が片付ける」




