第116話 見合い(潜入調査・経過)
次回の見合いの時に、ギルガンドを出迎えたのはヌルベカだった。
息子であるはずのロウの年から考えても、決して若くはないはずなのにどうしてか娘と同じくらいに若く美しい容姿を保っていた。
ギルガンドには、その違和感がたまらなく不自然で不愉快に思えてたまらなかった。
更に――見合いに来た彼をブラデガルディース家の当主サロフでも正妻ウビノでもなく、幾ら生みの母であれど、華美に着飾った愛妾が出迎えると言う、貴族にとっては非常識な行為そのものが、もうギルガンドには致命的に嫌悪感を抱かせていた。
しかし彼はそれを腹の中で押さえつけて、さも美しい女人を見たかのように驚きの顔を装ってまじまじとヌルベカを見た。
「あら、そんなに見つめられては恥ずかしいですわ……」
良い年の女がくねくねと腰を振って秋波を送ってくる不快感と苛立ちのあまりに、ギルガンドは頭の中で訓練用の木偶人形をありったけ両断する風景を思い浮かべて瀬戸際で堪えた。
「これは失礼。それで、その……サティジャ姫は?」
「実は妾の娘は貴方様を想うあまりにあれから寝込んでしまいましたの。どうか見舞ってやってはいただけませんかしら……?」
「勿論」
ギルガンドは応接の間でも客間でもなく、本邸から庭園を挟んで隣にある別邸に案内された。その別邸の更に奥に問題の『離れ』がある事を知っていたので、ギルガンドは庭園を通る時にいかにも咲いている花木に目が行った顔をして、
「失礼。姫君の見舞いだと言うのに手持ち無沙汰では」
ヌルベカを無視して、庭に進み出て大きな蕾を着けた花木を手折りつつ、そっと様子を伺った。
「あっ、それはっ!」
案の定ヌルベカは慌てたが、ギルガンドがすぐに戻ってきたので何も言えなくなってしまった。
「どうかこれをサティジャ姫のお近くに」
「……お、御気遣いに御礼申し上げますわ。ただ、我が家の庭師が丹精込めて育てた木ですから、どうか今後はお止め下さいな……」
「これは失礼」




