第109話 それの何が悪いの?
次第にサロフと一緒にウビノと子供達がヌルベカと食事を取り、共に物見に出かけ、宴を催し――やがてウビノに至っては虐げるどころか、ヌルベカに己の持つ宝石やきらびやかな衣服を譲るようになった頃に、ヌルベカはサロフの娘を産んだ。
産んだが、またしてもヌルベカは落胆した。
己にちっとも似ておらず、可愛くなかったのである。
渋々と育てていたが、その娘は育つにつれて恐ろしく頭が良い事が分かった。
ますますヌルベカはその子を嫌いになった。
「女は美しくて可愛くなければ意味が無いのに。目つきが生意気で嫌いだわ」
そう言ってヌルベカはその子を虐めさせた。
己は何もしなかった。
美の女神はその美によって周りを動かすのが当たり前だ、と彼女は思っていたからだ。
己の血を分けた子を、召使いだけでなくサロフやウビノ、子供達ですら疎んでいくようになっても、ぷいとそっぽを向いて無視をした。
「頭でっかち!」
「可愛くもない癖に!」
子供達はその子に暴力を振るい、サロフ達は徹底的に冷遇した。
「全く、アレは君に似ていないね?」
「ええ、できの悪い子だわ」
「旦那様、奥様、どうかお許し下さい……妾も、申し訳無くて消えてしまいたいですわ」
そう言ってヌルベカが涙をこぼすと、サロフはすぐに彼女を抱きしめて慰めるのだった。
「何、次こそ君に似た子を産めば良いだけだ」
その内に飽きてしまった彼女は、しばらく知らなかった。
興味が失せていたので、いつの間にかいなくなった、程度の認識しか無かったのだ。
彼女達が虐げた娘は、かつて己が亡夫ごと切り捨てた息子に助けられて、引き取られていった。
そして異父兄妹で力を合わせて生きていき、やがて彼らの労苦の報われる日が訪れるが――しかし、それとは対照的にヌルベカは年老いて醜くなっていくのである。




