第103話 兄、過保護。妹、干物。
クノハル・ゼーザについてはギルガンドも勿論知っている。『賢梟のフォートン』がしきりに「どうにかして配下に欲しい逸材だ」と口にしていたからだ。
「ふーん……そこまで凄いのか?固有魔法のおかげで物覚えが良いってだけだろう?」
『裂縫のトキトハ』がその理由を訊ねた事がある。
「貴女はこのガルヴァリナ帝国の上級官僚試験が記憶力だけで突破できるような簡単なものだと思っているのか?」
フォートンは逆に質問すると、トキトハは嫌そうな顔をした。
「じゃあ何だってんだ?」
「私はこのような問題を出させた。『羊飼いが牝の羊を10頭、牡の羊を5頭連れている。この羊飼いの年齢は幾つか求めよ』」
「こりゃ、また……お前の性悪と意地悪がそのまま腹から出てきたような問題だな。で、何て答えたんだ?」
「全員が羊の頭数に関連した、あるいは憶測で計算した数値を答えた中、彼女一人だけがこう書いてあった。『関連する情報の記載が無いため羊飼いの年齢は不明である』」
「完全に怖いもの知らず……。で、それが正解だったのか?」
「……トキトハ。貴女に聞きたいが、もしも患者が腹が痛いと泣いていたらどうする」
「そりゃ徹底的に診察して、必要だったら腹をさばいてでも病巣を取り出す」
「そうだ、私が配下に求めているのは正にそれだ。憶測で勝手に虚偽の情報を生み出し、ましてやそれに基づいて行動されてはとても困るのだ。分からない事は分からない事だと報告できる勇気を持ってようやく……我らは分からない事への対策を講じる事が出来る」
「……なるほど。よく分かった、医者で言ったら病んでいる所を特定していないのにむやみに腹をさばくのと同じだ」
――まさかそこまで見込まれていた女が、あそこまでだらしないとは思わなかった。
しかもあの様子だと、妹だからとロウが普段から甘やかして好き勝手にさせているらしい。
本当に兄妹共にどうかしている、とギルガンドは舌打ちした。




