第100話 過保護な兄①
「そうか、テオは……また見舞いを断ったか」
ガックリと肩を落とす皇太子を3人の皇太子妃がそれぞれに励ます。
「強引にでも行かれなさいませ!」とミマナ姫は尻を叩くし、
「皇太子殿下の見舞いを断るとはいくら同母弟であろうと無礼千万!」とレーシャナ姫は激怒し、
「殿下、どうぞお気を確かに!」とキアラカは澄んだ優しい声で励ます。
しかし皇太子は黙った後で深いため息をこぼして、
「いや、テオが断ったのなら……止めておく」
煮え切らない所のある、いつもと決まった返事をするのだった。
「あのう……」と皇太子が執務に向かった後でキアラカはミマナに訊ねた。「その、どうしてここまで第十二皇子殿下は皇太子殿下を拒まれるのでしょうか?皇太子殿下の方も、どうしてああも遠慮なさっているのでしょうか?」
「『赤斧帝』から皇太子殿下を庇われてあの子が処刑された、と言う話はご存じよね?」
それは平民でも知っている程の有名な話だった。
「……ええ」
「実はあの子が処刑される直前に、皇太子殿下にこう告げたの」
『二度と兄上にお目にかかる事は無いでしょう……。ですが、もし天下が平らかになったならば、いつか夜空の月に面影を見ゆる日もありましょうぞ』
「……そんな事が」
遺言だ、とキアラカは衝撃を受けた。
間違いなく、それは同じ血を分けた兄弟に向けた永訣の言葉だった。
かつて己と弟が父親に捨てられた時とそっくりではないか。
ミマナは首をゆるゆると左右に振り、悲しそうに言った。
「皇太子殿下が政の全権を掌握されて、乱れていた天下は確実に平らかになりつつあります。されど……きっとまだまだだ、とお互いにお思いでいらっしゃるのでしょうね」




