第9話 私は幸せになりたい
それからは楽しい事ばかりになった。散々に私を不遇な目に遭わせた資料課の連中に、どうやって報いを与えてやろうかと愉快な気分で考えて、すぐに実行した。
簡単だった。『頭が良くなる薬』と偽って、私の糞便を食べさせれば良いのだ。『曖昧』の固有魔法は糞便を『頭が良くなる薬』だと誤魔化してくれた。人の認知と認識を歪めてくれる『曖昧』は、何と素晴らしい固有魔法だろうか。
私は私の糞便を有り難がって食う連中の背中から、とても美味しそうな白っぽい塊がボロリとこぼれ落ちるのを見た。
あれだ。
あれが私の、新しく生まれ変わった私の糧なのだと直感する。
案の定――それはとても美味しかった。甘くて辛くて塩っぱくて苦くて酸っぱくて、この世の味覚の全てを合わせてから最上級のもののみを残したような究極で至福の味わい!
しかし問題も発生した。塊を食べた連中は、まるで生きた屍のようになってしまったのだ。これは良くない。私はもっともっともっともっとこの美味しい糧を食べたいのに。
私は考えて、『書写』と『曖昧』を更に活用する事にした。私の魂を連中の脳髄に書き写して、『曖昧』で不足した分は誤魔化した。
そうすると面白い事になった。
生まれ変わった私の魂を書き写したからだろうか。
連中の体液から実際に『頭の良くなる薬』のような効果が発現したのだ。
試しに、その体液を投与した女官はとても素晴らしい能力の向上を見せた。
これは良い。私は連中の体液を定期的に採取して、あめ玉のように加工して密かに売り出す事にした。
こうして、私を取り巻く世界はがらりと変わった。
金、私の気に入らない連中に報いを与えてやる力、何より生まれ変わった私。
私の望んだ全てが手に入ったのだ。
そう、全てが。
ああ、何て幸せで――
何て物足りないのだろうか。




