78、真なる邂逅。唯一永世絶対君主。
――確かに。一見すれば、千年の永きに渡り永世皇帝という傀儡を表向きの頂に。
その実は一人の毒婦が、傾世の美女が全てを恣にし、君臨した国。
それがこの歪なる大国、エリミタリア永世帝国。
「ふ。しかもその国を恣にする毒婦が国母を名乗るとは笑えない話だ。だが、事実は違う。なあ、そうだろう? そこにふんぞり返っている永世皇帝ネスカリシュオ」
俺にその名前を呼ばれた、豪奢な長椅子に座る金髪の少年帝は何も答えない。ただ、静かにその翠の瞳で俺を見つめているだけだ。
――つい先ほどまでの何も映していないかのような茫洋さとは違う、はっきりとした意志を持って。
「そう。永世皇帝ネスカリシュオ。俺が最初に疑問に思ったのは、代々の永世皇帝が名乗るというその名前だ」
――確かに、かつて日本人、プレイヤーであった俺がいたあの世界と同様に、この世界においても珍しくはない。
かつての偉人や偉大な君主、あるいは祖先にあやかり、同じ名前をつけることは。
だが、その場合、二世、三世、四世と通常代を経てその名前には数字が増えていくものだ。
――だが、このエリミタリア永世帝国においては違う。
何代経ようとも、国家元首の名は変わらず、常に『永世皇帝ネスカリシュオ』。そのただ一つ。
大して意味などない慣習にすぎないかもしれない。だが、もしそこに何らかの意味があるならば。
「そして俺は、掴んだ。秘密裏に優秀な密偵を忍びこませ、この永世帝国の内情――いや真実を」
その密偵とは、闇ニンジャマスターのイクチノ。
いまは俺の右腕となった前魔王デスニア。その直属の四天王だったイクチノに、主君となった俺は当然ながらスキルリセットをさせた。
その結果、正面切っての戦闘能力は大きく減じたものの、その潜伏、暗殺能力は大きく高まり、もはや密偵としては最高水準に。
……まあ、本人の性格から来るあの寡黙さは如何ともし難く、たとえば敵方へ変装しての潜入任務などには全く向いていないのだが―― 意図せずその辺りを補える優秀な人材に恵まれたことも俺にとって僥倖と言えるだろう。
……優秀であっても、そちらも非常に一癖も二癖もある、人材だが。
――感情の見えない見定めるような翠の瞳を赤の瞳で見返しながら、俺は叫ぶ。
信じ難く、空恐ろしく、だが決して揺らぐことのない真実を。
「そう……! 代々の永世皇帝が同じ『ネスカリシュオ』の名を名乗るのは何故か? 答えは単純にして明快! それは、全員が同一人物だからだ!」
ちらりともう一人。俺の意識が永世皇帝に向かってから、一切口を開くことも、だが動じることもなく静かな微笑みを浮かべてそこに佇む国母将帝マリアリテレザ。
――そこにもう一度視線を向けてから。
「禁忌の術式、『輪廻転生』! そこにいる本当の傀儡、国母将帝マリアリテレザを母体として劣化した肉体を捨て、生まれ直す秘儀! それを使い、この千年の間君臨し続けている! そう! まさにその名のとおりの『永世皇帝』! それがおまえだ! ネスカリシュオ!」
まっすぐに突きつけられた俺の糾弾に、長椅子に座る少年帝の翠の瞳が一度ゆっくりと瞑られ。
「…………小賢しい」
心底忌々しそうに、その形のよい唇が開かれる。
――その少年特有の高い声は、いままでとは打って変わった威厳と、聞くものが怖気をふるう圧に満ちていた。
「もうよい。マリアリテレザ。来い」
「はい。ネスカリシュオ永世皇帝陛下」
豪奢な長椅子の上。少年らしく膝丈のズボンを履いた足を組み、横に侍らせるのは、頬を朱に染めた一国を傾けかねない美貌。
少年帝はさらに、桃色の髪の絶世の美女を自らの妻だと主張するように左手でその腰を強く抱く。
「貴公は、建国わずか一年にも満たぬ成り上がり――魔王国エンデの君主、魔王ジュド。だったな」
そして、その翠の瞳が、自らを絶対だと定義する君主の意志をもって再び見開かれる。
「そうだ。余こそ、この千年――いや、その建国そしてこれより先の未来永劫に渡り、このエリミタリア永世帝国に君臨し続ける唯一永世絶対君主。永世皇帝ネスカリシュオである」
――ここに俺は、ようやく真の邂逅を果たした。
この俺がこのエリミタリア永世帝国を掌握するために蹂躙し、屈服させる必要のある、最大最後の障害。
――真の、敵と。




