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031,豚骨ラーメン



 肉体再生に成功した少年――バルドは、大手クランの引き抜きに応じて契約違反をし、首が弾け飛んだ少年の兄だ。

 今はマッシブに毎日付き添われリハビリに明け暮れている。


 数日の間、こまめに様子をみていたが、どうやら再生し、若干だが繋がっている肉体が拒絶反応を起こすこともないようだ。

 補強していたおかげもあって、ポロリと落ちることもない。

 肉体操作に関しても、初日はまったく動かすことができなかったが、翌日にはほんの少しだけ動かすことができ、徐々にその範囲も広くなってきている。

 思った以上にリハビリにかかる時間は短いのかもしれない。


 バルドの場合は、肉体生成促進に不可欠な遺伝子的に似通ったタンパク質が手に入ったが、もうひとりの少年に関しては難しい。

 そのため、もっと違う方法でどうにかできないかミリー嬢に相談しているところだ。

 きっとミリー嬢ならオレが考えつかない方法で解決策を導き出してくれるだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 バルドの経過観察中にストレリチアの監視を終えたエドガーが戻ってきた。

 結果からいえば、何も問題はなく、順調そのもの。

 マーシュたちの進言通りに、潜る階層を少し深めることが決定された。

 だからといってすぐに出発というわけではなく、今度は一日二日の迷宮探索ではなくなるので、様々な物資の準備から始まっている。

 大部分は魔道具と魔法袋によって解決するが。


 さらに、匂いなどの問題で敬遠されそうな料理を主に扱う実験的料理店がベテルニクス商会によって立ち上げられ、つい先日開店した。

 主なメニューは、豚骨ラーメンやニンニク入り餃子などだ。

 ここにさらに辛さが売りのものも加わる。

 比較的安価な値段設定になっており、数をこなして反応を見る予定となっている。


 豚骨ラーメンはもちろん、モーリッドと一緒に作ったのだが、普段は何もいわない使用人たちから匂いについて苦情がきたほどだ。

 ニンニク入り餃子はまだましだった。

 それでも、食べたあとの匂いについてはミーナ嬢に涙目で苦情を言われた。

 ただ、どちらも美味しかったのが悔しいみたいで、実験的な料理店を作って様子をみることになったのだ。

 ほかにもそういったレシピがいくつもあると、オレが漏らしたのも原因ではあるが。


 さっそく行ってみると、意外なことに行列ができるほど繁盛していた。

 いや、実際に美味しいので当然なのか?

 さらには今は値段も安いので、一般人でも気軽に食べられる。

 むしろ、安宿に泊まっているような人間でも普通に食べられる値段なので、多少匂いや辛さに問題があってもいいのだろう。

 それでいて美味しいのだから。


 オレはベテルニクス商会でも顔パスになっているほどなので、行列の整理にでていた店員に発見されるや否や、特別な人間用の個室に案内された。

 行列を作ってまで並んでいる人たちには申し訳ないが、特権は使うためにあるので問題ない。

 何より普通に並んでたら、いつになったら食べられるのかわからないし。


 護衛の二名と、エドガーとミリー嬢の五人で来ているのだが、護衛二名は食事中とはいえ、護衛を中断することはできない。

 申し訳ないが、こればかりは仕方ない。

 彼らも仕事だしね。


 エドガーはすでに個人で雇っているので、護衛が二名もいれば十分ということでちゃっかり席についている。

 ミリー嬢は言わずもがな、だ。


 ふたりともモーリッドの試作品を食べているので、匂いに関しても忌避感は薄い。

 ミリー嬢に至っては、まったくない。

 彼女は美味しければ正義なので、たとえ食後に匂いがきついことになってもまったく気にしない。

 腹ペコ魔人を止めることなど誰にもできないのだ。


 いや、珍しい魔法式なら止められるかな?


 事前に注文が入っていた分を、こちらに回したのではないかと思うくらいの速度で注文した料理が揃ったのは、この際置いておこう。

 箸の文化はアレド大陸にはないので、フォークしかないが、オレとミリー嬢はマイ箸を持参しているので問題ない。

 ミリー嬢も最初は箸に苦戦していたが、こと食に関することと魔法式に関することには非凡な才能を見せる彼女だ、あっという間に自在に扱えるようになっていた。


 ちなみに、麺をすする文化もないので、音を立ててラーメンをすするオレに護衛の二名は若干引いている。

 ミリー嬢とエドガーは慣れているので、そんなことを気にすることはまったくないが。

 ラーメンは音を立てて食べるのがいいのに。

 文化の違いというものはなかなかに難しいものだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 レシピ通りに作ってあるようで、特に問題もなく美味しい豚骨ラーメンと餃子だった。

 豆腐の製造にも成功しているので、ちょっと辛めの麻婆豆腐もこの店にはある。

 ほかにもエビチリもあり、両方とも本格中華に負けず劣らずの出来だ。


 まあ、そのレシピを提供したのはオレなのだが。


 この調子なら実験ではなく、本格的な提供もすぐに開始できるだろう。

 この店で提供されたのち、十分な支持があったものは別の店舗で提供が開始され、こちらでの提供は終了する。

 店先と店内には、提供終了した料理がどこで提供されているのかを示す案内板などの設置も予定している。

 尚、期間限定ではあるが、提供終了直後の料理に限り、提供を開始した店舗のみで使える割引券が配られる予定だ。

 これもオレのアイディアである。

 ほかにもベテルニクス商会と料理ギルドの協賛店を利用すると、一定額ごとに溜まるポイントカードなどのシステムも導入予定になっている。

 溜まったポイントに応じて割引などをしてもらえる。

 不正対策なんかは全部丸投げしたが、ベテルニクス商会なら良い感じに処理してくれるだろう。


 尚、ポイントカードの特許は受理されたものの、使用料に関してはほぼ無料にしてある。

 迷宮都市内で少しでも流行ればいいなあとか思ったりしたのだ。


「美味しかったですねぇ! でももっと食べたかったです。麺がもっと入ってればよかったのになぁ」

「大盛りの上に三杯も食べていたのに……?」

「ミリーさんなので」

「お館さま……。ちょっとミリーに甘すぎではありませんか?」

「そんなことないですよぉ! 本気を出せばこの二倍はいけます!」


 大柄なエドガーでさえ、大盛りを一杯に餃子十個だけだったのだが、腹ペコ魔人のミリー嬢は大盛り三杯に餃子二十個は食べていた。

 だが、それでもまだまだ彼女の本気には敵わない。

 エドガーはあんまりミリー嬢の食事風景みたことなかったっけ?

 オレは毎日一食は一緒になるので、もう見慣れてしまった。

 山と積まれた料理が瞬く間に彼女の胃袋に収まっていく光景など日常である。


 おっと、そういえば替え玉のシステムがなかったな。

 これはベテルニクス商会に伝えておかないといけないだろう。

 ミリー嬢も不満みたいだったしな。


 ただ、オレたちのように個室の場合にはちょっと面倒かな?

 でも、ほとんどは厨房から近いカウンターとテーブルで食べているから大丈夫だろう。

 運用方法は丸投げするし、試行錯誤は任せることにするか。


 ミリー嬢と護衛二名以外は満足して屋敷に戻った。

 尚、戻ってから護衛二名のために、モーリッドに餃子と醤油ラーメンを作らせたので、ふたりも満足したようだ。

 豚骨ラーメンじゃなかったのは、豚骨スープは下準備だけでも時間がかかるので、突然用意できるものではないからだ。


 豚骨ラーメンや醤油ラーメン、塩ラーメンは材料が揃っているのでレシピを提供できているが、味噌ラーメンだけはそもそも味噌が見つかっていないので作れない。

 ベテルニクス商会の力で大豆の生産をしているところを中心に探してもらっているのだが、未だに影も形もみつからない。

 醤油がみつかったときにはすぐにでも味噌も見つかると思っていただけに、ちょっと肩透かしを食らった気分だ。

 おかげで焼きおにぎりを作ってもなんだか物足りないし、味噌汁なんて当然作れない。

 代わりにお吸い物を作って我慢したが。

 ほかにも味噌漬けや味噌炒めなど、ないと思うと無性に食べたくなるので困る。


 もう、自分で作ってしまったほうが早いのかも知れない。

 ただ、麹は醤油を作っていた村からわけてもらえばなんとかなるだろう。

 ダメだったとしてもやらないよりはマシの精神でいくしかない。


 さっそくモーリッドに作り方を教えて作らせるとしよう。

 半年後くらいには味噌ラーメンが食べられるようになれば上出来か。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……とか思っていたら、それは突然にやってきた。


 ベテルニクス商会の実験的料理店に来訪した人物が、第一支店のほうにまで乗り込み、そしてオレの下へとすぐその情報が届けられたのだ。


 相手は、なんと自称日本人らしい。


 オーナ嬢と父親であるドルザール氏はオレが異世界から来た人間であることを知っている。

 信じているかは別として。


 だが、ミーナ嬢には話していないし、オーナ嬢たちも伝えていないそうだ。

 ただ、出身国については話してあるので、日本人がもし現れたらすぐにオレに伝えてもらえるように頼んでいた。


 しかし、積極的に探してはいなかった。

 同郷の人間が恋しくなるほどの期間も経っていないし、意外と忙しかったからね。

 フッドフォール王国の中でも、大商会に位置しているベテルニクス商会の力でも異世界人のことは知らなかったし、ましてや異世界へ、地球へ帰る方法なんて当然知らなかった。

 この世界には魔法は存在しても、奇跡を起こせるようなものではない。


 オレがゴーレム使いとして少し特殊であるように、ほかにも異世界からやってきた人間が特殊であったとしても、さすがに別の世界へ渡る方法など、少々特殊なだけでは済まされないような力を持っているとは思えない。

 というか、そんな力を持っていたらオレならすぐ帰る。

 今だって、地球へ帰るために色々と非人道的な手段にまで手を染めているのだし。


 だからあまりその日本人にも期待はしていなかった。



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