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乱戦

 武器を構えた兵士達が一斉に私達に襲い掛かってきた。

 私はさっと身を屈め、一気にその兵士達に向かって走り出す。

 するとその私を追い抜くように後ろから、闇の玉が数発兵士達に向かって飛んでいったのだ。

 そしてその闇の玉は何人かの兵士に直撃し、壁際までその兵士達を吹き飛ばしたのである。

 私は走りながらチラリと闇の玉が放たれた方を見ると、リカルドが無表情で片手を前に突き出して立っていたのだ。


(リカルドナイス援護!)


 そう心の中でリカルドに感謝すると、私はリカルドの攻撃で動揺している兵士の一人に一気に近付き剣を下から上に振り上げその厚い装備ごと斬り上げたのである。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 そんな兵士の絶叫を聞き流しながら、私はすぐに次の兵士に向かって駆け出す。

 その間にもリカルドが援護射撃で次々と闇の玉を撃ち出してくれていたのだ。

 私は次なる兵士に近付くと剣を振り上げその兵士に振り下ろそうとした。

 するとその兵士は私の剣を受け止めようと剣を横に構えたのである。

 しかし私はそのまま剣を勢いよく振り下ろす。

 次の瞬間、甲高い音を上げ兵士の剣が真っ二つに割れそのまま私の剣はその兵士を斬り捨てた。


(・・・凄~ダンさんの作ってくれたこの剣、斬れ味抜群だ!!)


 私はその斬れ味にただただ驚いて、刃こぼれ一つ無い刀身を見つめていたのである。

 するとそんな私に他の兵士達が数人後ろから一斉に襲い掛かってきた。

 しかし私はすぐにその動きに反応し、振り向きながら剣を振り斬りその兵士達をまとめて叩き斬ったのである。

 そうして私は迫り来る兵士達をリカルドと共に次々と倒していったのだ。

 だがそれでも次から次に兵士がこの謁見の間に現れてきて、正直キリがないのであった。

 どうも兵士の一部が増援を呼びに行って、その時にダザリアの褒賞の話をしたらしく来る兵来る兵皆目をギラつかせていたのだ。


「・・・少々面倒ですね」

「本当にね・・・」


 私の隣にやって来たリカルドが、闇の玉を撃ち出しながらその兵士達の様子を見て眉間に皺を作っていた。

 私も襲い来る兵士達を剣でなぎ払いながら、どんどん増える兵士達を呆れた表情で見ていたのだ。

 しかしその時、その兵士達の後ろから大きな雄叫びと共に新たな魔族達が謁見の間に押し寄せてきたのである。


「うげぇ!また増援?」

「・・・いや、どうも様子がおかしいですよ」


 そんなリカルドの言葉に私はじっとその後から来た魔族達を見ると、なんとその魔族達は武器を手に兵士達を襲っていたのであった。

 そしてよくよく見ると、その魔族達の多くは下級、中級魔族達であったのだ。一応その中には上級魔族も混ざっているようだったが。


「・・・一体何が?」


 私はその突然の出来事に呆然としていると、その兵士達を攻撃している魔族の中から、数人の下級、中級魔族が私達の下に駆け寄ってきたのである。

 その魔族達に私は一瞬警戒したが、どうやら私達に向かって殺気を感じなかったので警戒を解いたのだ。

 すると私の下まで辿り着いた下級魔族の一人が、目を輝かせながら私に話し掛けてきたのである。


「ありがとうございました!」

「へっ?」

「我々は貴女に家族や友人をあのダザリアから助けて貰った者です!」

「あ、ああ、無事再会出来たんだね。良かった!」

「本当にありがとうございます!そしてその助けられた者達から貴女があのダザリアやガザール様・・・いやガザールを倒しに行っていると聞いて、我々も共に戦うべくやって来たんです!さらに途中ゼクス様が戻られていると聞いた反ガザール派の上級魔族も我々に加わってくれ、今こんな大部隊となったのです!」

「そうなんだ・・・ありがとう!!」


 私はその魔族の言葉に回りを見回し、一緒に戦ってくれている魔族達を見て嬉しくなったのであった。


「では我々は戻ります!」

「うん!ありがとう!でも気を付けてね、待ってる家族がいるんだからさ」

「はい!」


 そう大きく頷いて返事を返してくれ、そして再び戦いの場に戻って行ったのだ。


「・・・レティ、貴女は凄いですね」

「へっ?何が?」

「本来上級魔族である兵士達に下級、中級魔族達は戦いを挑もうとはしません。力の差が歴然としていますので。しかし、貴女の行動であの者達は立ち上り、そして貴女の助けになろうとああやって考え一人の兵士に対して数人で立ち向かう事をしています。そしてその熱意に味方の上級魔族達も下級、中級魔族達を助けながら戦っているようです。こんな事はゼクス様が王として統治していた時には考えられなかったんですよ」

「そうなの?」

「ええ、ゼクス様が統治されてた時は確かに同族同士の争いは無かったものの、階級や力の差による差別はありました。なので殆どはそれぞれの階級だけで集まって暮らし、他の階級の者と関わろうとしなかったのです。しかし今はその壁が無くなっているように見えます」


 そう言ってリカルドは、じっと入り乱れている戦いの場を見つめたのである。

 そんなリカルドを見てから私ももう一度戦いの場を見つめ、これを機会に差別が無くなると良いなと思ったのだ。

 だがその時、突然その戦いの場に激しい炎が襲い掛かったのである。


「なっ!?」


 私は驚きながらその炎が放たれた方に視線を向けると、いつの間に連れてきたのかダザリアがまるでライオンのような黒く大きな魔物を横に従えて立っていた。

 そしてよく見るとその魔物の口から炎が小さく漏れ出ている事から、どうやら先程の炎はその魔物から放たれたのが分かったのである。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

「熱い!熱い!」


 その声のハッとし、私は慌てて水の魔法でその体に火がついている魔族達の上から大量の水を掛けて消火したのだ。

 そうしてなんとか一応は火は消し止められたのだが、大きな火傷を負って沢山の魔族達が床に転がり呻き声を上げていたのである。

 しかしその中にはダザリアの命で戦っていた兵士達も複数混じっていた。

 そんな姿を呆然と他の兵士達が見つめ、そして恐る恐るダザリアの方に顔を向ける。


「ダ、ダザリア様何故?」

「お前達が全く役に立たんからだ!とっととそいつらを殺せばそんな目に合わなかったんだぞ!役に立たんお前達などどうなろうとワシは知らん!」

「なっ!?」


 ダザリアの言葉に兵士達は驚愕の表情で固まり、そして次第に怒りの形相でダザリアを睨み付けたのだ。


「なんだその目は!ワシに逆らうのか!ふん、お前達などそこのクズ魔族共と一緒にこのワシの実験体が放つ炎の餌食となるがいい!!」


 そうダザリアは憎々しげに叫ぶと、横にいる魔物に何か魔法を掛けた。

 するとその魔物は大きな口を開け今にもその口から炎を吐き出そうとしたのである。


「・・・リカルド、あとの事よろしく!」

「・・・御意」


 私はすぐに足に跳躍の魔法を掛け、一気に飛ぶと魔族達と魔物の間に飛び降りたのだ。

 そしてすぐに目の前に強固で大きな障壁を張ったのである。

 その瞬間、魔物の口から放たれた炎が私に迫ってきたが私のその障壁に阻まれ一切私や後ろにいる魔族達に届かなかったのであった。

 私はその炎を防ぎながら後ろを振り返り、真剣な眼差しで兵士達に言葉を発したのだ。


「私があの魔物を抑えるから、あなた達はそこの怪我人を連れて安全な場所へ!!」

「え?何で俺達を・・・」

「もう敵じゃ無いでしょ?」

「っ!!」

「良いから早く!!私さすがにあなた達を守りながらじゃ戦えないから!!」

「っ!わ、分かった!!ありがとう!」


 そう私の叫びに兵士達は感謝の言葉を残し、すぐさま倒れて動けない兵士や魔族達を担いで私から離れて行ってくれた。

 私はその姿を見てホッとしてから、すっと前を向いてまだ炎を吐いてくる魔物をじっと見つめたのである。


「あ、有り得ぬ!ワシの力作であるこの実験体の炎を防ぐだと!?こいつには力のクリスタルを取り込ませてあるんだぞ!!」


 そうダザリアは叫ぶが、私はその叫びを無視してその吐いてくる炎に向かって氷の魔法を放った。

 するとその炎は氷の魔法によりあっという間に炎の形のまま凍りついたのである。


「なんだと!?」


 私は驚いているダザリアを一瞥すると、すぐに障壁を消し去り一気に跳躍して魔物の後ろまで飛ぶとその背中に向かって剣を振り下ろしたのだ。


「ぐっ!か、硬い!」


 剣でその魔物の背中を斬ろうとしたのだが、思いの外その魔物の皮が硬く逆に跳ね返されてしまった。

 私はすぐに後方に飛び退き距離を取る。


「くくく、こいつの皮はそんなただの剣では斬れはしないぞ」

「・・・・」


 そのダザリアの自慢気な顔に私はイラッとしたのだ。


(ほ~なら『ただの剣』じゃなければ良いんだね)


 そう私は目を据わらせながら心の中で思うと、徐に剣を横にしてその刀身に空いてる方の手を沿わせた。

 そして意識を集中すると、その刀身に真っ赤に燃え上がる炎を纏わせたのだ。


「な、なんじゃそれは!?」

「魔法剣です!」

「そんな魔法聞いたこと無いぞ!!」

「まあ、私の創作魔法だからね」

「な、なんだと!?お、お前は一体何者なんじゃ!!」

「え?ただの元村娘です」

「そんなわけあるか!!!」


 私がとぼけた感じに言ったら、ダザリアは顔を真っ赤にして怒りの形相で叫んだのである。


「ふざけおって!!どうせそんな剣もワシの実験体に通用するはずがない!よし行け!あやつをその鋭い牙で噛み殺すのだ!!」


 そう言って再びダザリアは魔物に魔法を掛けたのだ。どうやらそれはその魔物を操るための魔法のようである。

 その証拠に、魔物は意思の無い真っ赤な目をしながらこちらに顔を向け鋭い牙を剥き出しにしながら唸り声を上げてきた。

 私はその魔物に対峙するように剣を構えタイミングを見計らう。

 すると一気にその魔物が私に向かって駆けてきたので、私も姿勢を低くして一気に駆け出したのだ。

 そして魔物が私の目の前で大きく跳躍し私を上から襲い掛かろうとした所を、私は炎を纏わせた剣を一気に振り上げその魔物の体を斬りつけたのである。

 今度は魔法で補強しておいた事でその剣は魔物の皮膚を斬り裂き魔物に致命傷を与える事が出来た。

 そしてその傷口から剣の炎が燃え移り一気に魔物の体が業火に包まれたのである。

 そうして魔物は断末魔の叫び声を上げると、そのまま床に倒れ伏して動かなくなったのであった。

 私はじっとその屍となった魔物を見つめてから、すっと視線を上げダザリアを見る。

 するとダザリアは信じられないといった顔で呆然と私を見ていたのだ。

 私はそのダザリアに向かって一歩足を踏み出す。


「ひっ!」


 ダザリアはそんな私を見て恐怖に顔を引き攣らせながら、後ろに後退りしていく。


「・・・き、金の魔神」


 そうダザリアは私を見ながら呟いたのである。


(・・・誰が魔神だ!!って、これ前世でも同じことあったんだけど!!!前世が『銀の魔神』で今回が『金の魔神』?・・・何で毎回そんな風に言われるんだ!?)


 私は再び魔神と呼ばれたことにうんざりしながらも、まだ炎を纏っている剣をダザリアに向かって振り下ろす。

 するとその剣から炎の塊が一気にダザリアに飛んでいったのだ。


「ひぃぃぃ!」


 ダザリアはその炎の塊を慌てて避けるが、完全には避けきれず左腕に当たり激しく燃えだしたのである。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 そうダザリアは苦痛の表情で叫ぶと、慌ててその左腕の炎を手で叩き消す。

 しかしその炎はなかなか消えず、漸く消えた時にはその左腕は真っ黒に焼けただれていたのだ。


「く、くそう!くそう!こんな馬鹿なことが!たかが人間の女にこのワシが!!」


 そう悔しそうに言い放ち、焼けただれた左腕を押さえながら憎々しげに顔を歪めていた。

 そんなダザリアに私は無言でさらに近付いて行ったのだ。


「ひっ!く、来るな!ガ、ガザール様!!」


 ダザリアはそう叫ぶとゼクスと戦っているガザールの方に必死な形相で駆けて行ったのであった。

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