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潜入

 今は誰もいない謁見の間で、一人ガザールは玉座に座り肘置きに肘を置いて頬杖をついていた。

 そしてもう片方の肘置きを指で苛立たしげに叩いていたのだ。


「くそ!何故あの人間の女が見つからないんだ!」


 そうガザールはイライラした表情で一人怒っていた。


「そもそもあの女、どうして俺に気が付かれずあそこまで入ってこれたんだ!俺が絶対気が付かないはずねえのに!!それとも・・・俺が思っている以上に人間共の能力が高いって事か?そんなはずねえ!あんな下等生物にそんな事出来るはずねえんだ!」


 そうしてさらにガザールは仏頂面になり、肘置きを叩く速度が早くなったのだ。


「それにどうも腑に落ちないのが・・・あの女にどこかの魔族が係わってるみてぇなんだよな。あの微かに残った魔力の気配・・・なんか知ってるような気がするんだが・・・まさか!ゼクスか!?いやいや、あいつの気配なら俺が分からないはずがねえし、あんな人間と関係があるとは到底思えんしな。あ~くそ!なんかもやもやしてイライラする!!」


 ガザールはそう怒鳴り、さらに眉間の皺を深くして何もない天井を睨み付けていたのだった。するとその時───


「ふっ、相変わらず血の気の多い男だ」

「・・・なっ!?」


 突然自分以外の声が聞こえ、ガザールは驚いて声のした方に視線を向けると、そこにはここに居るはずの無い前王のゼクスがうっすらと笑みを浮かべながら立っていたのである。


「き、貴様はゼクス!!」

「久しいの」


 ガザールはガタッと音を立てながら玉座から立ち上り、憎々しげにゼクスを睨み付けた。

 しかしそんな視線を受けている方のゼクスは、涼しい顔でガザールを見ていたのだ。


「ゼクス!貴様一体どこにいやがった!俺が散々探しても見付けられ無かったんだぞ!!」

「ふっ、お前の努力が足りなかっただけであろう」

「なっ!ふざけやがって!!」

「そんな事よりも、我はお前に話があって来たのだ」

「はぁ!?話だと?俺には話などない!!それよりもお前の命を今度こそ頂くぜ!!」


 そうガザールが叫ぶと共に背中に仕舞ってあった羽を出すと、一気にゼクスの下に飛び立つ。

 そして飛びながら掌に闇の玉を作り出し、それをゼクスに向かって撃ち出したのである。


「・・・相変わらずすぐ戦いたがる男だな」


 そうゼクスは呟くと、徐に腕を軽く一振りしたのだ。

 するとゼクスの目の前まで迫っていた闇の玉が、急角度で曲がり横の壁に向かって飛んで激しく激突したのである。


「ちっ、やっぱり効かねえか!ならやはり直接攻撃だ!死ねゼクス!!」

「・・・仕方がない、暫く相手をしてやろう」


 ガザールは腰に挿していた剣を引き抜きゼクスに向かって振り被ったのだが、その前にゼクスが手を前にかざして剣を出現させそのガザールの剣を軽々と受けたのであった。









     ◆◆◆◆◆



 地下の長い廊下の曲がり角で、様子を伺うために顔を少しだして廊下の先を見る。


「・・・見張りは誰もいないみたいだね」

「そのようですね。しかし・・・侵入者があったのにそれでもここに警備を置かないとは・・・」

「それほどあそこに他人を近付けたく無いって事でしょう。まあ、その方が私達にとっては都合が良いんだけどね」


 そう苦笑しながら私は、一緒に覗き見ているリカルドと廊下の先にある扉をじっと見つめた。

 実は私とリカルドは、あのダザリアの研究室がある地下に来ているのだ。

 何故再びこんな所にリカルドと一緒に来ているのかと言うと、私が前あの研究室を覗いていた時にその研究室の奥にもう一つ扉があったのを見ていたのである。

 その事をゼクスに話すとゼクスは魔鏡を使ってその扉の奥を調べてくれたのだが、その扉の奥に沢山の下級、中級魔族達が捕まっているのが映し出されたのだ。

 私達はその様子を見てすぐにその魔族達を助け出す事に意見が一致し、そのためにはどう動くか昨日話し合ったのである。

 そして話し合った結果、一番厄介なガザールの注意を反らし足止めをするのをゼクスが引き受けてくれ、私はリカルドの転移魔法で移動し魔族達の解放を担当する事になったのだ。


「・・・どうやらガザールとゼクス様の交戦が始まったようです」

「分かるの?」

「ええ、魔力の波動を感じましたので」

「そうか・・・ゼクスの体の事もあるし、こっちも早めに終わらせないとね!」

「急ぎましょう」


 そうして私とリカルドは、足音を立てないように気を付けながら急いで研究室の扉の前まで移動した。

 そして音を出さないようにそっと薄く扉を開け中を覗くと、案の定そこにはダザリアが色々な薬品を触りながら研究に没頭していたのである。


「・・・リカルド、手はず通りにお願い」

「・・・畏まりました」


 私はじっとダザリアの様子を観察しながら後ろにいるリカルドに小声で言うと、リカルドも同じように小声で返事を返しスッとその姿を消した。

 そしてすぐに私は扉の視角になる場所に移動しその時を待ったのである。


「・・・ダザリア様!ダザリア様はどこにおみえですか?」


 そんな声が上の階に続く階段付近から聞こえてきたのだ。


「ダザリア様!!」

「誰じゃ!!ここには誰も近付くなといつも言っておるだろう!!!」


 そんなダザリアの怒鳴り声と共に扉が大きく開き、そこから憤慨しながらダザリアが飛び出してきた。

 そしてダザリアは、そのまま声のした曲がり角の先にある階段に向かって早足で行ってしまったのだ。

 私はその様子を扉の影からじっと見つめ、ダザリアが角を曲がって姿が見えなくなった所で急いで研究室の中に入っていったのである。


「・・・中に入るともっと臭いが強烈だな~。ダザリア何でこんな所でずっと平気でいられるんだろう」


 そう私は顔を顰めて口と鼻を手で覆いながら、急いで奥の扉に向かうとその扉には鍵が掛けられていた。


「まあこんなのは・・・」


 私はそう呟き鍵の部分に手をかざすと、解錠の魔法でその鍵を難なく開けたのである。


「・・・本当に貴女の魔法は便利ですね」

「あ、リカルドお帰り~。ダザリアの方はどう?」

「幻覚の魔法で暫く私の影を追って行ったのですぐには戻って来ないでしょう」

「そっか、ありがとうね」

「いえ。それよりもこの先は・・・」

「うん、やっぱりガッツリ探知魔法が仕掛けられてるよ」


 そう言って私は薄暗い扉の先をじっと見つめた。

 そもそも何故リカルドの転移魔法で直接この中に入らなかったのかと言うと、魔鏡で調べていた時にここに探知魔法が仕掛けられている事に気が付いていたからだ。

 そしてさすがにその探知魔法は直接でないと解除出来ないので、こうして面倒だがダザリアをこの研究室から遠ざけたのである。


「じゃあやりますか!リカルドはダザリアが戻ってこないか見張っててね」

「畏まりました」


 そうして私は両手を前に突き出すと、意識を集中してその扉の先全体に掛けられている探知魔法を解除したのだ。


「・・・うん、よし!もうこれで大丈夫なはずだよ!」

「私にはさすがに分かりませんが、貴女がそう言われるのでしたら信用致しましょう」

「ありがとう!じゃあダザリアが戻ってくる前にとっととやりますか」


 私の言葉にリカルドは無言で頷き、私達はその扉の奥に入っていったのである。

 そして私は事前に魔鏡で見ていたとはいえ、この目の前の現状に眉をしかめた。

 そこは沢山の地下牢が並び、その中に子供から大人まで大勢の下級、中級魔族が入れられていたのである。

 しかしその扱いは見ただけで酷いのがよく分かった。

 多分あまり食事を与えられていないのか皆細く痩せ細り、床に寝そべっていたり壁にもたれ掛かっているだけでその顔に生気が無かったのである。


「・・・酷い」

「・・・ダザリアにとって、この者達はただの実験道具としてしか見ていなかったのでしょう」


 そのリカルドの言葉に、私は唇をぎゅっと噛みしめ無意識に手を強く握りしめたのだ。


「・・・レティ、時間がありません。急ぎましょう」

「うん・・・皆!助けに来たよ!!」


 私はそう力強く牢に捕まっている魔族達に声を掛けた。

 すると最初は私達の存在に気付きもせずただボーとしていた魔族達の目に段々と生気が戻り、恐る恐るながら牢の柵に近付いて私達をじっと見てきたのだ。


「・・・助け?あんた・・・今助けにと言ったのか?」

「うんそうだよ!私達があなた達全員を助けに来たんだよ!」

「ほ、本当か!?お、お願いだ!助けてくれ!!俺には家で待つ家族がいるんだ!」

「私も夫が!!」


 そんな声が牢屋のあちこちから聞こえ、必死に牢から手を差し出して助けを求めて来た。


(・・・うんごめん、不謹慎かもしれないけどちょっとこれホラーにも見える。でもさすが魔族なだけあって、あんなに弱っているように見えたのに動けているよ。これなら大丈夫そうだね)


 私は目の前の光景に若干恐怖を感じながらも、隣にいるリカルドに顔を向けたのだ。


「ねえリカルド、ここって地上だとどこら辺になる?」

「地上ですか?確か・・・城の裏手にある森の辺りかと」

「ふむふむ、ならそこには誰もいないよね?」

「ええ、そこは居住区になっていませんので誰もいないかと。しかしそれが何か?」

「いや~さすがにこの人数引き連れて城の中通るの大変かな~と思って」

「しかしさすがに私の転移魔法でも、この人数を運ぶのは無理ですよ?」

「うん、分かってる。だから・・・手っ取り早くこうしようかと!」


 そう私は言うと、連なっている牢屋の先の何もない壁に向かって手をかざしそこから一気に大きな氷の塊を撃ち出したのである。

 そしてその氷の塊が激しく壁に激突すると、その衝撃で地面が揺れたのだ。

 しかし私はそんな事は気にせず、その氷の塊を操ってそのままその壁を粉砕し地上に向かって現れた土壁を洞窟のように削っていく。

 一応その時周りの土壁が崩れてこないように、氷で固めて補強しておいた。勿論壁を粉砕する時にはね飛んだ瓦礫が牢屋にいる魔族達に当たらないように、牢屋前に障壁を張るのは忘れていないのである。

 そうして牢屋の魔族達やリカルドが呆気に取られている間に、私はどんどん掘り進めとうとう地上へと貫通したのだ。


「うん!地上の光も入ってきてるし無事繋がったね!」


 私はそう言って満足そうに腕を組み一人頷いたのである。


「レ、レティ・・・貴女は何をしているのですか!これではすぐにダザリアが戻って来てしまいますよ!それにこの音を聞き付けて兵士達も!」

「あ、怒ってるリカルドって初めて見た!いつもの無表情より全然良いよ!」

「っ!今はそんな事言ってる場合ですか!!」


 そんな珍しい表情のリカルドを見て嬉しくなりながら、私は牢屋の前に張った障壁を消すと共に一気に全部の牢屋の鍵を手を一振りして解錠したのだ。


「さあ皆、動ける人は自分の足で逃げてね!怪我とかしてるなら言ってくれれば治すから!」


 私がそう言うと、最初一体何が起こったのか分からない様子で呆然としていた魔族達が、歓喜の表情で一斉に牢から飛び出してきたのである。


「ごめんリカルド、一足先に地上に出て安全確認だけ宜しく!私は全員脱出するまでここで護衛するからさ」

「はぁ~畏まりました」


 リカルドは小さくため息を吐くと、スッと転移魔法で姿を消したのであった。

 そうして私は怪我をして動けない者や体力が激しく衰えてしまっている者達に、魔法で治癒や体力補強をしてあげてどんどん地上に送っていったのである。

 そして最後の一人が開けた穴をくぐって行ったのを見届けた時、突然後ろの方で怒声が聞こえてきたのだ。


「一体これは何じゃ!!」


 その声に振り返ると、研究室の扉付近で怒りの形相のダザリアが立っていたのである。


「お、お前は!この前取り逃がした人間の女ではないか!!これはお前がやった事か!!!」

「あ、うんそう」

「き、貴様!!」


 怒りを露に私を睨んでくるダザリアに、私はあっけらかんとしながら答えると、さらにダザリアは青筋を立てて目を吊り上げたのだ。


「許さぬ!許さぬ!ワシの研究を邪魔したお前をワシは絶対許さぬぞ!!!」

「・・・私もあんたの事絶対許さないのでお互い様だね」


 そう私は言うやいなやさっと手をダザリアにかざし、風の魔法でダザリアを再び廊下側へ吹き飛ばしたのである。


「ぐぁ!」


 床に体を強打し呻き声を上げるダザリアを無視し、私は次に研究室に向かって炎の魔法を次々撃ち出す。

 すると一気に研究室の中が激しい炎で燃えだしたのだ。


「や、やめろ!!ワシの大事な研究資料が!!!」


 そんな悲痛の声が炎の向こうから聞こえるが、私はそれを無視しくるりと踵を返すと皆が通って行った洞窟に向かって歩いていく。

 そして私は歩きながら次々と後ろの天井に衝撃波をぶつけ、ダザリアが追ってこれないように天井を崩して道を塞いだのである。

 そうしてまだ叫んでいるダザリアの事など放っておき、私は自分で作った洞窟を通り地上に出たのであった。


「レティ!無事ですか!?」

「あ、リカルド私は大丈夫だよ。それに・・・こっちの方ありがとうね」


 私はそう言って、周りで息絶えてる武装した魔族達を見回す。


「やはり先ほどの爆音で兵士が数人様子を見に来たので」

「そっか・・・じゃあ早くここを離れた方が良いね」

「そうですね」


 そうして私とリカルドは、助けた魔族達を安全な場所に避難させる事にしたのであった。

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