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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第九章 そして二人目

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97 路地裏の攻防

 まずい!

 まずい!!

 まずい!!!


 姿をくらます襲撃者を先走って追いかける仲間。これって誘拐されたり大怪我したりする典型的な流れだよ!

 しかも相手はリーヴに攻撃を防がれたにもかかわらず、少しも焦った様子を見せてはいなかった。


 つまりミルファは誘い込まれてしまった可能性が高いということなのだ!


「エッ君、急いでミルファを追いかけて!」


 返事をする暇すら惜しむように、キャリーバッグから飛び出していくエッ君。


「リーヴはさっきのやつが投げつけて来た凶器を回収してから追いかけてきて!」


 残念ながら凶器の存在にすら気が付かなかったボクでは探すことすらできない。大幅な戦力ダウンとなることに歯噛みしながらも、ボクはミルファとエッ君が消えた路地へと駆けて行くのだった。


 奥の方から騒がしい音が聞こえてくる。それは懐かしい出来事を思い起こさせるもので、それでいて心の底から凍えさせてくるような恐ろしい音だった。

 そんな音と〔警戒〕技能の反応を頼りに入り組んだ路地を走る。


「くそっ!何なんだこいつは!?」

「エッ君!?」


 そしてようやく少しばかり開けた場所に辿り着くと、エッ君と襲撃者が争っている場面に出くわした。

 少し見えた限りではエッ君がその小さな体の利点を生かして怪しい人物を翻弄しているみたい。その動きはいつも通り軽快そのもので怪我もしていない。


 良かった。ホッと安心しそうになったのも束の間、もう一人、いなくてはならない人が見えないことに勘付かされる。


「ミルファ!どこにいるの!?」


 ほとんど叫ぶような声音でのボクの呼びかけに応えた訳ではないのだろう。

 が、そのタイミングでエッ君と男の立ち位置がズレた。


 そこにあったのは地面に広がる金糸たち。それは、ほんの数分前までボクの隣で陽光を浴びてキラキラと煌いていたものだ。


「ミル、ファ……?」


 自分の口から出た言の葉のはずなのに、やけに遠い場所から発せられたものであるような気がしていた。


「追いついて来たか。だが好都合だ。この場で全員まとめて始末してやろう!」


 呆然としていたボクに、襲撃者の男が嘲るように言う。

 刹那、視界が真っ赤に染まった。


「ああああああ!【ピアス】!!」


 弾かれたように駆け出すと同時に、アイテムボックスから短槍を取り出して闘技を放つ。


「なん――、ぐはっ!?」


 数メートルの距離を一瞬で詰められ男は驚愕の表情を浮かべる。そして碌に反応もできないまま渾身の一撃を受けて吹っ飛んでいく。


 一方、ボクはというと、【ピアス】を放った体勢のまま固まっていた。

 短槍の向きが逆になっていたことを除けば、冒険者協会の訓練場で何度も何度も繰り返した動きの通りといえる。

 鋭い穂先ではなく石突きでの攻撃だったのは、街中で刀傷沙汰はまずいと最後の最後で辛うじて理性が働いたからなのかもしれない。


 とはいえスピードの乗った一撃を腹部に受けた上に、堅い路地の壁に強かにその背中を打ち付けられることになったのだ。

 その痛みは相当なものになっているはずだ。

 事実、男はイモムシのようにもぞもぞと蠢くことしかできないでいたのだから。


「!!ミルファ!」


 荒い息がようやく収まってきたところで、地面に倒れていたミルファのことを思い出した。

 振り返ると、エッ君が彼女の隣で「こっち、こっち!」と言うように飛び跳ねていた。


「う、うわー。頭に血が昇った挙句に仲間を放り出して敵を攻撃するなんて、自分でやったことながらドン引きなんですけど」


 沸き上がってくる不安感から眼をそらせるように、独り言をつぶやきながらミルファの元へと急いだ。

 石畳にうつ伏せになっていた彼女を仰向けにして、その頭をボクの膝の上に乗せる。

 ゲームだからなのか、ざっと見た限り外傷も見当たらなければ、血が流れている様子もない。ただ、苦しそうに寄せられている眉だけが痛々しい。


「とにかく、回復させないと」


 パーティーメンバーということで表示されていたHPゲージは既に三割ほどにまで減少していた。

 手早くアイテムボックスから取り出して振りかけると、回復薬はキラキラとしたエフェクトを残して消えていく。

 同時に彼女のHPは一気に全回復していた。


「う……、く……」


 しかしその直後、小さく苦悶の声を上げたかと思うと、ミルファのHPが少しずつ減少を始めたのだった。


「どうして!?確かに薬は効いたはずなのに!」


 始めて見る状態にパニックになりかける。まさか『兜卵印の液状薬』を作る合間に作成しておいたお手製の薬だったので失敗作だったのかという考えが頭をよぎった。

 でも、失敗作だった場合はアイテム名にそう表示されるはずだし、何よりも彼女のHPは一旦回復していた。

 つまり回復薬自体は効果を発揮していたのだ。


 そんなボクの不安のあおりを受けたのか、エッ君も落ち着きなく周囲を走り回っていた。

 あ、ミルファの足を避け損ねてこけた……。


 人間とは自分よりも慌てている人を見ると、意外にも冷静になれるものらしい。走っては転びを繰り返すエッ君を見ている内に、頭の中が少しだけクリアになったような気がした。


「とにかくミルファの状態を調べないと!」


 幸いにもこちらはHPゲージなどが表示されるゲームの中だ。リアルのように専門的な知識がなくても知る術はあるはず!

 そこでまず思い出したのがステータスだ。パーティーメンバーなのだから、ボク自身のものやエッ君たちテイムモンスターのステータスのように細かくは見ることができなくても、大まかに知ることくらいはできるのではないだろうか。


「ステータスオープン。対象はパーティーメンバー全員」


 すがるような気持ちでステータス画面を呼び出すと、ずらっとボクたちの名前にレベルやHPとMP、そして肝心の心身の状態が表示された。

 やったと内心で喝采を上げつつ、ミルファの欄へ視線を這わしていくと……。


「気絶に、……毒!?」


 何と彼女は毒に侵されていたのだった。急いで画面の毒の表示をチェックすると、解説が表示された。


『状態異常、毒。継続的にHPが減少する。継続時間や減少量は毒の強さによって変化する。毒消しなどのアイテムや、【キュア】の魔法によって消去できる』


 ゲームではよくあるタイプの、一定時間HPが減少し続けるというものだった。イベント限定のえげつないものでなかったのは安心材料だ。

 だからといって予断を許さない状態には変わりがない。

 なぜなら、


「毒消しも【キュア】も持ってないし!」


 だったからだ。

 しかもこの毒、かなりのスピードで彼女のHPを食い散らかし続けていた。一度は全快していたはずなのに、もう半分近くにまで減少している。

 再び背中を冷たいものが流れていく。


「誰か!〔回復魔法〕を使える人はいませんか!?」


 気が付くとボクは、ミルファを抱きしめながらそう叫んでいた。


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