95 技能の続きとパーティーメンバー
ついでに上位の技能についても解説。
〔回復魔法〕などの一部技能を除いて、技能は熟練度を最大にすることで上位技能へと変化する。
これは自動で行われるもので、例えばボクが習得している〔風属性魔法〕だと、熟練度を最大に上げることで〔中級風属性魔法〕に変化し、さらに使用を重ねて熟練度を上げていくと、〔上級風属性魔法〕へと変化していく、という流れだ。
こんな感じで基本的には簡単で明解なシステムだね。
……まあ、基本的にという言い方をする時点で、面倒で小難しい部分もあると言っているのと変わりがない訳でして。
さて、ミルファが習得していた技能の中に〔細剣技〕と〔防御用短剣技〕というものがあったのを覚えている人はいるだろうか。
実はこれ、〔剣技〕という技能の熟練度を最大にすることで発生する『派生技能』というものに当たる。ちなみに、直属の上位技能に当たるのは〔上級剣技〕という技能です。
こうした派生技能が存在する場合、熟練度を最大にした時点で「どの技能を習得するか?」を選択させられることになるのだ。
つまりミルファの場合、〔剣技〕の熟練度を最大にした時に〔細剣技〕か〔防御用短剣技〕のどちらかを自動で習得したということになる。
ここで問題なのが選択されなかった上位技能や派生技能だ。
先の話にあったようにオーブで取得する事はできないので、「二度と習得する事はできなくなっているのではないか!?」と焦ったプレイヤーも過去には居たそうだ。
ぶっちゃけ彼女が二つの派生技能を習得している時点でバレバレな訳ですが、もちろんそんなことはなかった。
上位技能や派生技能が選択できるようになった段階で、その技能は習得するまで後一歩の状態になっているのだ。王手にチェックメイト、リーチなどと言い換えてもいい。
普通の技能を習得する時と同じように訓練や勉強をすることで、上位技能や派生技能があなたのものになる!という寸法だったのだ。
まあ、習得したところで熟練度を上げなければ使い物にならないのは上位技能だろうと通常技能だろうと変わりはない。
しかも上位の技能は強力な分、効果が及ぶ範囲が狭く設定されている。またまたミルファに例になってもらうと、〔細剣技〕ではまるで系統の違う大剣や刀は元より、極一般的な形状の剣でさえも技能の対象外となってしまう。
だから、あれもこれも手を出したところで結局は熟練度が上げられずに宝の持ち腐れ状態となってしまうのだった。
「複数の派生がある場合でも、私のように二種類くらいしか習得しない人が大半だと聞いたことがありますわね」
ミルファがこう言うってことは、三種類以上習得したらNPCからは物好き扱いされそうだね。
まあ、プレイヤーの中でいわゆる検証好きとか調査好きと呼ばれている人は、三種類どころか全ての派生先をコンプリートしているそうだけど。
「結局のところ、オーブで技能を取得するのはデメリットの方が勝っていることになるのかな?」
「基本的にはそう考えておけば問題ないと思いますわ」
微妙に彼女からの答えの歯切れが悪かったのは、個人によってデメリットの捉え方も許容範囲も異なってくるため、一概にそうだとは言い切れない部分があるからだろう。
この辺りのことは一々取り上げていくときりがない上に、不毛な論争に発展していきかねないので気にしないという方向で。
「あえて言うなら能力値を上昇させる技能であれば、熟練度がないのでデメリットとなる部分は少ないのかもしれませんわね」
即効性はあるけれど一切成長がない技能だからね。
とはいえ、費用対効果を考えると微妙とのこと。
「能力値上昇系の技能オーブは、オーブの中でもひときわ美しいとされているために美術品や調度品としての価値が高いのですわ」
扱いとしては完全に宝石と同じでお値段も急上昇!なのだとか。運営も簡単には入手できないように手を打っているということのようだ。
これは『異次元都市メイション』に行けるまではお預けと考えておいた方が良さそうかも。まあ、あちらでも手が出せない可能性もあるけど。
「ですから、どうせお金を使うのであれば装備を整える方が有意義なのですわ」
「あ、そこに戻ってくるんだ」
「ええ!今のリュカリュカであれば、一ランク上の装備に変更するだけなら大銀貨一枚あれば十分ですもの」
大銀貨というと千デナーだね。リアル換算だと一万円くらいか。デザインにこだわらなければ、量販店でそこそこの品質の服を買えるという感覚なのかもしれない。
「リュカリュカは戦闘では後衛寄りの中衛という立ち位置ですから、魔力を高める効果のある装飾品なども欲しいところなのですけれど……」
「それは現物を見てから決めてもいいんじゃないかな」
欲を出すと際限がなくなりそうだし。
「そういえばリュカリュカは、何体まで魔物をテイムするつもりですの?」
「何体って、それはテイムしたいと思える子がいればいくらでもテイムしたいところだね」
「しかし、パーティーメンバーは六人までと決まっていましてよ」
「あ、そうか。うーん……。常に連れて歩けるのは五人までなのか……」
「そこでさらっとわたくしのことをパーティーから外さないでくださいまし!?」
あっはっは。もちろん軽いジョークですよ?
涙目になっているミルファの頭をポンポンと撫でてあげる。これでもクンビーラでは上から数えた方が明らかに早いという、高い身分の持ち主のはずなんだけどねー。
まあ、彼女以外のNPCパーティーメンバーも欲しいところだし、テイムできるのは後一枠ということになるのかもしれない。
「なんだい、リュカリュカは『ファーム』を使わない派なのかい?」
ちょっと残念に思っていたところに横から声を掛けてきたのは、『猟犬のあくび亭』の女将さんことミシェルさんだった。
「『牧場』?それって何ですか?」
「おや、知らなかったのかい?ファームっていうのは名前の通りテイムモンスターたちを飼うことができるという代物だそうだよ。なんでも特別な空間に繋がっているとかで、そこに入れてさえおけば、パーティーメンバー以上の数のテイムモンスターだって連れて歩ける優れものだという話さね」
「そ、そんな凄い物が!?」
それを、てにいれないなんて、とんでもない!




