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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
最終章 

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929/933

929 強いんですけど?

 「ぐわははは!勝てばよかろうなのだ!」とバカ笑いする悪党並みの小ずるい方法で先手を取ったボクたちだったが、与えられたダメージは致命傷には程遠いものだった。

 ダメージこそ通ったけれど左手が使えなくなったとかそういうことはなさそうなのよね。現に今も手首を振り振りしたり、グッパーグッパーと指を動かしたりしているので支障はなさそうだ。


「ぐぬぬ……。最後の一撃は割と本気だったんだけど。アレを素手で止めるとか、スラットさんの体はどうなってるのよ!?」

「まあ、時間だけはあったからね。私のような素人の鍛錬でもそれなりの形になったということさ」


 うわー。長命者あるあるな設定だー……。

 あの境遇も止められなかった自らに対する罰だとか考えていたみたいだし、のんびりと怠けて過ごすような真似もできなかったのかもしれない。


「ある意味あの秘術の成功例だものねえ。最悪、死霊化した上に正確な時間が不明なくらい長い年月を研鑽に(つい)やした連中が相手だったかもしれないのか。……うん。勝てる見込みが万に一つもなさそう」


 ちなみに、長命系では有り余る時間を持て余して存在していることに絶望していく、なんてパターンもあります。こちらはこちらで自分だけでなく世界ごと滅びようとしていたりと、こちらはこちらで(こじ)らせて面倒なことになっている場合も多い。


「しかし、奇襲を成功させても効果が薄いのはきついなあ」

「それなら諦めて王冠を渡してくれないかい」

「冗談にしても笑えないね。本気ならもっとつまらない。自分から勝負を投げ出すだなんて、そんな恰好の悪いことできやしないよ」


 諦めたら以下略なあの言葉は世界の名言集にも記載されている至言です。


「……その結果どんなに無様(ぶざま)な姿をさらすことになり、どれほどの苦痛を与えられるとしても同じことが言えるかな?」

「わーお。これまた素敵な脅し文句だね。いきなり奇襲を仕掛けたボクに勝るとも劣らない悪役っぷりだよ」

「ふっ。悪党か。反乱勢力の人々から声高に言われた時には心が(きし)むかと思えるほどに苦しかったものだよ」


 それは多分、台詞の裏にある自分たちの行いを正当化しようする思惑が透けて見えていたからではないかしらん。

 『神々の塔』に迫るくらいだったから勢い自体は間違いなく向こうにあったはずだ。が、建国のいきさつを知っている以上、『空の玉座』がある限り逆転される可能性が常に残っていると怯えていたのではないだろうか。そうなると自分たちの正当性を主張するために、ことさら強く悪しざまに言っていたと考えられる。

 その一方で、『天空都市』側の腐敗も相当のものだったみたいなので、事実もたくさん含まれていただろうけれど。


「まあ、ボクは自分の考えというか想いに沿った行動しかしていないから」


 なにせ太古の遺産である『空の玉座』を『天空都市』もろとも海の底に沈めようとしている訳ですからねえ。もしも知られてしまえば、歴史学者等々の研究者たちだけでなく多くの一般の人たちからも身勝手な愚か者だと(さげす)まれて糾弾されることになりそうだ。


「だからこれは悪いやつ同士の自分勝手な争いってこと」

「……自分勝手か。同じ支配されるにしても突然現れた見ず知らずの者では反発されて当然ということか」


 あ、うん。そういうことではあるのだけれど。……え?今の話の流れからそこに行き着くの?


「理解できたなら引いてくれちゃってもいいんですけど?」

「……ふっ。私にも意地があるから、ここで易々と引くことはできない。それに一度滅びの憂うべき目を味わった者として、それを繰り返させない義務があるのでね」


 栄枯盛衰は世の常というやつなのだし、そんなはた迷惑な義務感は捨ててくれて構わないのだけれどなあ……。

 とにもかくにも話し合いは失敗ということになりそうかしらね。はてさて、エッ君とボクの二人でどこまでやれることやら。スラットさんの強さを鑑みるに、こちらの切り札は防御力を無効化してダメージを与えることができる【ペネトレイト】や【流星脚】といった闘技になりそう。


 ただ、向こうもそのくらいのことは理解しているだろうからなあ。その前段階となる読み合いの化かし合いが勝負の分かれ目になりそうだ。

 こうなると先の奇襲が失敗したことが響いてくる。実は既にあの時ボクは手札を一つ切ってしまっていたのだ。決め手となった【ピアス】を放つ前、こちらに意識を向けさせるためにやったスウィングだけれど、あれは闘技を使ったように見せかけただけだったのだ。


 基礎的な闘技は動作をアシストしてくれる効果がある反面、使用後に少しばかりの硬直時間が設定されている。だから本当はくるりと回って背中を見せることもできないのだ。

 次々に手を繰り出していた戦いの真っ最中だったから気が付かれなかったけれど、こうして間があったことであの攻撃がフェイクだったことはバレてしまったかもしれない。


 この、かもしれない(・・・・・・)が困りものなのよねえ。バレていなければ有効な一手として機能する反面、バレていた場合は決定的な隙になってしまう。そしてその危険がある以上、結局は使用することを控えるという選択を取らざるを得なくなってしまうのだ。

 うーむ……。単純だからこそ使いやすいし効果も高かったのだけれどなあ。注目させるためだけに使用したのはもったいなかったね。もっともこれらは後になってからの今の段階でだから言えることでもある。後悔とは後にならなければできないものなのですよ。


「お互いの主張は平行線で譲る気もなしか。残念だがもう実力行使しかなさそうだ」


 水を向けてきたということはこれ以上の遅延も無理ということか。自然回復したMP量は微々たるものだわねえ……。まあ、着水までのカウントダウンの最中なので元々引き延ばせる時間なんてそうはなかったのだけれど。

 それに、MPが万全なくらいで覆せる実力差でもなさそうだし。どうやって勝てばいいものなのやら……。


「交渉が決裂しちゃったのは残念だけど、実力行使は望むところだよ。ああ、先に言っておくと、さっきのでボクたちの実力を見切ったつもりでいたら大怪我するよ」


 これで気持ちまで負けてしまったら本当に手も足も出なくなってしまう。はったりだろうが何だろうが、自分たちを鼓舞していかないと!


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