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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十五章 元凶たち

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920 ここでこれなの?

 玉座の裏にあったのは下へと続く階段だった。明かりがまったくないらしく、十数段先は闇の中だ。いわゆる地下にあたるのかそれとも隔離された空間なのかは不明だが、秘密の場所であることは間違いなさそうだ。


 ちなみに、(ふた)になっていた床はどういう原理なのか勝手に開きました。まあ、ゲーム的な面から言うなら、プレイヤーが発見して認識することがトリガーになっていたのだろう。

 設定的には謎なままだけれど。だからエッ君、「もう一回やって!」とか言われても無理だから。リーヴも解析したそうな顔をしないで!妹分のトレアの方がよほど落ち着いている……、あ、人化していつでも下りる準備は完了していますかそうですか。


 謁見の間に到着するまでの『天空都市』の探索中は『ファーム』の中で待機させていたからなのか、悪霊との大一番の戦いが終わったばかりだというのにうちの子たちは元気が有り余っている感じだわね……。


 のんびりしていて崩壊が始まってはシャレにならないので、さっそく階段を下りてみることに。〔生活魔法〕の【光源】で明かりをともして、さあ出発。

 薄暗い階段を踏み外さないように慎重に進んでいく。緩く右へとカーブしているようで、先が見えないことの一因になっているみたいだ。

 画面越しのゲームであればパッと画面転換が行われるところがだが、VRの体験型となるとそうはいかない。血沸き肉躍る冒険活劇があるはずもないのだから、さっさと終わらせればいいのに。

 一方で焦燥感だとか不安感だとかいうものは否応なしにかきたてられてしまうから、それが狙いだったのなら大成功と言えるだろうね。……微妙に腹立たしいけれど。


「……長いね」

「長いですわ」

「長すぎではないでしょうか」


 百を超えたあたりで数えるのをやめてしまったので正確な段の数は分からないが、多分その三倍から五倍くらいは足を動かしたと思う。低めに見積もって一段辺り二十センチだとしても、六十から百メートルは下っていることになる。

 相変わらずカーブも続いていたため螺旋状の動きになるから、横への移動はほとんどないのではないかしらん。多分、謁見の間のほぼ真下に位置していると思われます。


「まさか、このまま『天空都市』の下まで突き抜けていくなんてことはありませんわよね?」

「ミルファさん、変なことを言うのは止めてもらっていいですか」


 人はそれをフラグと呼ぶので。そう言ってたしなめたボクだったが、その可能性は十分にあり得そうだと考えてしまった。

 そしてそういうフラグ回収に余念がないのが『OAW』というゲームだ。時間間隔がなくなりそうになるくらい薄暗い中を歩かされ続けた結果、到着先で目にした光景にボクたちは唖然とすることになった。


「……本当に底にまで突き抜けてしまいましたの?」


 縦横高さのそれぞれが数メートルほどのその空間は側面の一つがぽっかりと開いてしまっていて、空と海――はるか下の方にちょっぴりとだけ見えた――の青に埋め尽くされていた。いつの間にか縁の方へと誘導されていたとも言えなくはないが、ミルファが口にしたように真下に突き抜けたと考えた方が妥当だろうね。


「転移魔法陣の中継地点でも見えたけど、こうしてみると本当に海の上に居たんだねえ」


 数歩ばかり――いや、普通に怖いので端まで行くとか無理――開かれた側へと進んで下方を覗いてみれば、そこに広がるのは空とは異なる青さだ。


「海の上……。脱出用の魔法陣はちゃんと大陸に届くのでしょうか?」

「そこは大丈夫だと思うよ」


 不安そうなネイトに努めて明るく言う。一応、根拠もある。


「そんなに極端にアンクゥワー大陸から離れている訳じゃないから。ほら、あれ見て」


 指さした先には縦に一本の棒、いや線のようなものが。


「あれ、『神々の塔』だよ」


 高度があるのでそれだけしか見えないけれど、もう少し近付けば大陸の山々なども見えてくるはず。

見知った存在があったことでようやく安心できたのか、ネイトが胸に手を当てながら大きく息を吐く。アンニュイな表情が妙にせくしーですな。そんな彼女を少女形態のトレアちゃんがニコニコと見上げていた。


 対してもう一人の仲間のミルファはというと……。


「こうして下を見てようやく空の上だと実感できましたわ」


 エッ君とリーヴをお供に、開いた面のそばまでいってじっくりと外の景色を鑑賞していた。万が一にでもふらついて落下したりしないように両手を床につけているとはいえ、見ているだけで足の裏がムズムズしてきそうだよ……。


「転移魔法陣を探すよ」


 大した広さでもないので一人でも十分ではあるのだけれど、こちらの心臓に悪いので呼びかけて戻って来てもらうことにする。


「探すも何もそこに見えているではありませんの」


 お楽しみを中断されて不機嫌、ということではなくあまりにもデカデカと描かれていたので、探す意味もないと思えてしまっていたのだのだろう。ミルファの視線を辿れば確かに魔法陣が描かれていた。

……壁に。


「うん。あれのことはボクも気が付いていたよ。でも転移のための魔法陣が壁に描かれているなんておかしいでしょ」


 なお、〔鑑定〕によると強風を発生させる魔法陣とのことだった。


「こわっ!?なんですのそれ!?ここまできて悪質なトラップですの!?」


 ミルファの反応も当然で、その魔法陣があるのは奥側の壁だ。つまり下手に起動させてしまうと開いた方へと吹き飛ばされ、そのまま下の海面に向けて真っ逆さま、となってしまうというものだった。


「そうとも言い切れないかもしれないんだよね……」


 脱出のための秘密の通路の先にあるというのが一点。そして他に魔法陣らしきものが見当たらないというので二点目だ。そして最後に、そこそこ大きな物体が魔法陣のすぐ前にこれ見よがしに鎮座ましましていた。


「あれって脱出ポッドだよねえ……」


 球状の形態といい、ファンタジーな世界観にそぐわない機械感満載なメカメカしい外見といい、どう考えても宇宙船からバシュン!と射出される緊急用脱出ポッドにしか思えなかった。


「もしかしなくても脱出逃亡用ってこれのことだよね?あの魔法陣で強風を発生させてバシュン!と飛ばしちゃう設計ですか。……転移の魔法陣というのは誤って伝わった情報だったということかあ」


 長らく強権を維持する時代が続いていたので、下手をすれば存在すら忘れられていたかもしれないのだ。どんなものなのか確認されていなければ誤って伝えられてもおかしくはないということかしらね。


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