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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第九章 そして二人目

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92 テスト終了

 スピーカー越しに聞こえてくるチャイムの音に、教室内の雰囲気が弛緩していくのが感じられる。


「はい、そこまで。答案用紙を回収する……、前に名前を書いているかだけ確認させてやる」

「先生、それって定番のネタじゃないの?名前を書き忘れる人なんていないでしょ」

「残念ながらいる。俺だって実際に見たことがあるからな。しかもよりによって受験の答案というおまけつきだ」

「おーう……」


 先生と教卓前に座っていたクラスメイトとのやり取りに、何とも言えない空気となる我がクラス。


「先生、ちなみにその子はどうなったんですか?」

「……聞きたいか?」

「いえ……」


 別の学生のさらなる自爆で、もはや体感温度は氷点下!

 七月に入り「梅雨とは一体……」と呟きたくなるような晴天の元、グングン気温が上がっている中とは思えない肌寒さですよ!

 まあ、教室内は空調が効いているのだけど。


「まあ、ともかく名前だけは確認させてやるからすぐにチェックするように。……終わったな。それじゃあ回収して回るから、じっとしていろよ」


 ボクが通っている学校ではテストの答案用紙は全て監督の先生が回収することになっている。

 数年前までは一番後ろの席の学生に回収させていたそうなんだけど、ある時人の答えを暴露した人がいたらしいのだ。それがちょっとしたどころじゃない問題となり、今のやり方に変わったという訳。


 などと解説している間にボクの答案用紙も先生が回収していく。

 筆記用具だけが置かれた机を見て、ようやく終わったという実感が湧いてきた。


「うし。それじゃ、お疲れー」


 軽ーい台詞を残して教室から出て行く先生を見送り、そのままべちゃっと上半身を机の上に投げ出す。


「あら?優にしてはお疲れみたいね」


 ぐでっとたれていると前の席の雪っちゃんが振り返ってきた。

 ボクの苗字は三峰で、雪っちゃんは星。なのでテストのような出席番号順に座る場合、ボクたちは前後の席になるのだ。


「んー、ちょっとねー」


 今回のテストは両親からの重圧などが厳しくて難儀していた部分があり、先程ようやく全ての日程を無事に消化、解放されたことで一気に気持ちが緩んでしまった。

 いやあ、思った以上にゲームができなくなるかもしれないっていうのがプレッシャーになってました。


 タイミング的に初めてミルファというNPCを仲間に加えた直後だった、ということも関係していそうかな。例のイベントクエストも全くと言っていいほど進んでいないし。

 要するに、区切りを付けられらない状態で放置してしまったために気になって仕方がなかったのだ。


「……帰ったらまずはログインかな」


 時間はちょうどお昼になったところだから、ご飯は帰り道の途中にあるどこかのお店で摘まめるものでも買うことにしよう


「例のVRのゲーム?すっかりハマっちゃったのね」

「あはは、そうみたい」


 若干呆れた口調の彼女に誤魔化し笑いを浮かべる。

 中学時代はボクも雪っちゃんと同じく、ゲームに熱中する里っちゃんを(たしな)める側だったから、ミイラ取りがミイラになった、と思われているのかもしれない。


「そういう雪っちゃんはこの後部活?」

「そうよ。まあ、今日のところはテスト期間でなまった体をほぐして終わりってことになりそうだけど」


 スポーツにも力を入れ始めたけれど、うちの学校全体で見ると勉強、進学の方を重要視していることには変わりがない。

 ぬるいと取られるかもしれないけれど、それもまた校風なんだと思う。


 雑談をしながら筆記用具等を鞄に仕舞い、代わりに端末を取り出す。


「あれ?メールが入ってる?」


 正確にはVRダイブ用のヘッドギアへと送られてきたことの通知だ。送り主を確認してみると『OAW』の運営会社の名前が。

 この時点で緊急を要するものではないと分かったのだけど、何となく気になったのでこちらへ転送させて中身を確認してみることにした。


「ええと、なになに……」


 そこに書かれていたのは、夏休みに合わせて開催される予定の公式イベントのお知らせだった。

 こうしたゲームのイベントというと、一番に思い浮かぶのは経験値アップだとかレアドロップ率アップ辺りかな。

 実際『OAW』でもゴールデンウィークと七夕で二回、こうしたイベントは行われていた。ゲーム開始前とテスト期間中で、どちらもボクは参加できなかったけどね!


 だけど今回のものは少し違うようだ。


 『OAW』は一人プレイが基本のゲームだけど、『次元都市メイション』というプレイヤー同士の交流用の街があり、他のプレイヤーから直接攻略についての話が聞けたり、イベントを発生させることによる街の発展の違いなどを確認したりということができるようになっている。


 他にも「自分のワールドに他プレイヤーを招待する」というシステムも開発されているという噂は以前からあって、近々の内に公式発表されるのではないかとも言われていた。


 そうしたプレイ環境であるからか、それとも元となったゲームがオンラインであるためなのか、今回のイベントは大勢のプレイヤーを一カ所に集めて行う種類のものであるらしい。


 題して『銀河大戦』。


 参加表明をしたプレイヤーをランダムにいくつかのチームに振り分けて、総出で陣取り合戦を行うというイベントとのこと。

 銀河、つまり宇宙を舞台にとか、世界観などなどを一切無視したぶっ飛んだ設定だね……。

 まあ、ある種のお祭り騒ぎのようなものなので、このくらい普段とは異なる状況の方が、開発するにしても参加するにしてもやり易いのかもしれない。


「どうかした?」


 途中で帰る準備を止めてしまったボクに、雪っちゃんから声が掛かる。


「あ、今度ゲームでイベントがあるみたいで、そのお知らせだったよ」

「なんだ、そんなことか。いきなり止まるから心配しちゃったわよ」

「ごめんね。結構長文だったから、つい読み耽っちゃった」


 テストが終わったことでちょっとばかり腑抜けてしまっていたかな?思わぬところで躓きかねないから、プライベートな空間に帰るまでは気を引き締めておかないと。

 もう一件運営から届いていたメールについては後回しにしよう。

 さっさと帰り支度を済ませながら、呼びに来た部活仲間と一緒に教室から出て行く雪っちゃんを見送る。


「さて、私も帰るとしますか」


 週末ということもあってどこかへ出かける計画を立てているクラスメイト達に別れの挨拶をしてから廊下へ出ると、途端に夏特有の湿度の高い熱気に包まれた。

 校舎から出るとさっそく練習を始めたのか運動部の人たちの姿が。


 青春している若者たちの声を背中に受け、ボクは夏の強い日差しに炙られながら自宅へと向けて自転車をこいで行くのでした。


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