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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十四章 『天空都市』へ

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893 オーバーロードの使い方

 エッ君が上手くヘイトを集めてくれている間に、準備した魔法にMPを過剰積み込み(オーバーロード)させていく。


 一方、圧倒していたように見えたミルファたちだったけれど、実はそう簡単な話ではなかったらしい。冷たい陽炎は保護色というか姿を隠す能力に全振りしているためか、少しでも気を抜くとすぐにどこにいるのかが分からなくなってしまっていたのだとか。

 そのたびに攻撃を大振りにして居場所をつきとめることから始めなくてはいけなくなるため、どうしても倒すまでに時間と手間が必要になっていたのだった。緊張感あふれるものながら、絵面としてはとっても地味よねえ……。


 ああ、それといくら他の能力が搾りかすの激弱だといっても、こんな所に登場するだけのことはあるからね。街道沿いに出没するブレードラビットやロンリーコヨーテとは比較にならないほどの強さなので。雑魚とは違うのだよザコとは。

 つまり、油断していると手痛いダメージを受けることになるということだね。


 まあ、それも踏まえてネイトにはミルファとリーヴのフォローをお願いしていたという訳です。ある意味あちらを鉄壁の布陣にしてしまったことで、こちらの手が足りなくなってしまったのは誤算だったよ。


それと、これは後から思い至ったことなのだけれど、〔気配察知〕の技能持ちであるボクがあちらを担当する方が適当であったかもしれんない。それこそ壁役のリーヴとの二人だけでも対処できたかもしれない。

 で、ミルファとネイトにアシッドスライムを担当してもらえれば、二人分の遠距離からの魔法攻撃で安全に戦うことができたかもしれないのだ。


 これからも複数の魔物と同時に接敵するなんてことは当たり前のようにあるだろうし、このあたりの適切でちょうどいい人員の割り振りの仕方も今後の課題だね。


 さて、そろそろ強酸性なスライムとの戦いに戻りましょうか。いい感じにMPも詰め込めているようだしね。


「エッ君、離れて!【ウィンドボール】いっけえ!」


 コミカル調にトテテと離れたのを確認してから過剰積み込み(オーバーロード)させた魔法を放つ。意図的に拳大の大きさに練り込んだそれは、狙い通りに獲物へと着弾すると同時にボシュッ!と弾けてアシッドウーズの体を大きく抉り飛ばしていた。


「うわあ!?ばっちぃ、じゃなかった。危ない!」


 飛散した範囲が広くて危うくボクたちがいる場所にまで届きそうになったのは想定外でした……。酸の含まれた粘性の体が飛び散り付着した床からシューシューと煙が上がる――実際に溶けてはおらず、演出でした――中、体積の半分近くを奪われたアシッドウーズは痙攣(けいれん)するように震えていた。


「うーん……。核がむき出しになるかと思ったんだけど、そう上手くはいかなかったかあ」


 アシッドウーズは濁ったような不透明だったので外から核を見つけ出すことはできなかった。そのため思いついたのが、着弾した瞬間に弾けて周囲にまでダメージを与える性質を持つボール系魔法での攻撃だった訳なのだけれど……。なかなか目論見通りとはいかないようだ。


「いっそこのまま魔法をぶつけ続けて、HPを全損させる方が早いかしらん?」


 そう思ったのも束の間、半分ほどにまで激減していたはずのHPゲージが六割方にまで回復していた。


「なんで!?」


 慌てて目を凝らしてみれば、すぐそばに飛散していた欠片がうぞうぞと本体に合体していた。どうやら飛び散った部分もまだ「生きている」と判定されているようだ。

 幸いにも合体できるのは本体から近いものだけであるらしく、HP自動回復のようなえげつない仕様ではないみたいだ。


 それでも厄介な能力であることに違いはない。しかも体積が減って身軽になったのか、最初に比べると随分と動くスピードが増している。的としてのサイズも小さくなっているし、先ほどと同じように過剰積み込み(オーバーロード)させた魔法をクリーンヒットさせるのは難しいと思われた。


 こちらにとって不利な点はまだある。あちこちから煙が上がっていることで視界が悪い上に、よろしくない成分が含まれているのかじんわりとHPが減少していたのだ。

 長期戦になると危険だね……。魔法でちょっとずつでも――物理的に体積を――削りながら、核か酸袋を露出させるしかないかしら。


「エッ君は引き続き動き回ってあいつをかく乱して。足元の欠片には十分注意してね。それと、ヘイトを稼ぐために【裂空衝】の使用を許可します」


 と伝えるや否や、待っていましたとばかりに攻撃を始めるエッ君!?


「ちょっ!?MPの残りには注意してよ!?」


 思わず叫んでしまったのは仕方がないと思う。もっとも、あの子の判断も間違ったものではなかったのだけれどね。

 先の攻撃でドッカンとあちらのHPを削ってしまったため、アシッドウーズのヘイトはボクへと向けられていた。敵を翻弄するためには、エッ君()脅威であると思い知らさなければいけなかったのだ。


 ちなみにこれは最低ラインね。それというのも魔法は制御に失敗すると暴走する危険があるからだ。過剰積み込み(オーバーロード)に挑戦するでもなければ能動的に発生させる機会はなく、発生しても大した被害がないのでほとんど知られていないのだけれどね。

 ただし、魔法を準備中にタイミング悪く敵からの攻撃を受けることでも、同様のことが起きてしまう可能性はある。確実に魔法を発動させるためには、敵のヘイトが完全にエッ君に移る必要がある、という訳です。


 まあ、魔法をぶつけるたびにボクへのヘイトは加算されていくため、そこまできっちりとした管理はできないだろうけれど。でも、あっちこっちに気を取られていれば攻撃の的を絞り切れなくなるので、それくらいで丁度いいのかもしれないね。ポジティブにいこう。


 時折移動しては立ち位置を変えつつ【ウィンドボール】をぶつけていく。一度【アクアボール】も使ってみたのだけれど、こちらは大失敗だった。HPが回復することこそなかったものの、魔法を取り込むようにして体積が増えてしまったのだ。しばらくすると元に戻ったけれどね。


 ちまちまとした削り作業が続き、そろそろMPの残量に不安を感じ始めた時、ようやく待望の瞬間が訪れた。


「ん?何か見えた!?」


 叫び終わった時にはそこに矢が突き立っていて、支えるものをなくしたようにアシッドウーズはその場にデロリと蕩けていったのだった。


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