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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十四章 『天空都市』へ

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891 精神にダメージ

「えーと、この辺りにあるはずなんだけど……」

「あちらではありませんか?」

「あ、確かに。ネイト凄い!」

「四本のそっくりな木が『神々の塔』に向かって三メートルの等間隔で一直線に並んでいる……。言われて見れば違和感ばかりですが、知らずに歩いていては見過ごしてしまいそうですわ」


 眉間にしわを寄せながらミルファが言う。森や林とは呼べなくても、周囲にはそこここに木々が生い茂っているからねえ。

 加えて、目の前には迫りくる壁のように『神々の塔』がそそり立っているから、ついつい視線はそちらに居寄せられてしまうのだ。ノーヒントでこれを見つけるのはなかなかに難しいものがあるだろうね。


 さて、こちら一見何の変哲もない四本の木が何かと言いますと、迷宮になっている『神々の塔』の内部へと入り込むための門、もしくは転移装置のようなものであるらしい。頂上への移動は迷宮の機能を利用するため、内部へと入り込まないといけないという訳だ。


 というか、登山道などもないのでこれを利用しないで登るとか無理。キロ単位で垂直の壁をよじ登るとか試練の域を越えてもはや拷問だから。

 その上、壁を這い回る昆虫タイプやトカゲ型の魔物、鳥系の空飛ぶ魔物とまでエンカウントするというのだから無理ゲーです。


 人間をやめるほどにレベルアップしているのでもなければ、おかしな能力に目覚めているのでもないボクたちとしては、内部の機能を使う一択だった。


「これはスラットさんと敵対するどころか、険悪になった時点で詰むことになっていたかな……」

「自力でこれを見つけられる自信はありませんわ」


 NPCと友好的な関係を築くことがいかに重要かよく分かる話だわね。まあ、仲良くしたくない人とか仲良くするのは不味い人も当然いるので、そのあたりの見極めだとか注意だとかは必要になるけれど。


「これからどうするのでしたかしら?」


 門といっても常時動いている訳ではなく、起動させるための特定の手順が必要になるとのこと。もちろん、それについても教えてもらってはいる、のですが……。


「『神々の塔』から一番遠いのを一本目として……。まず二本目と三本目の間を右から左に抜けて、次に三本目の間を左から右に。で、四本目の周りををぐるりと回って左側に行って、一本目と二本目の間を左から右に通り抜ける。そして最後に二本目と三本目の間に立ちキーワードを唱える。……で合っていますか?」

「ほぼほぼ正解。キーワードを唱えるときに専用のポーズをとる、が抜けてたよ」

「ああ、そうでした。……どうしてリュカリュカはそんなに疲れた顔をしているのですか?」

「大したことじゃないから気にしないで」


 と返したものの、この後のことを考えるとかなり、かーなーり!頭痛が痛くなる思いだった。

 実はですね、このキーワードと専用のポーズというやつがそれはもう中二病感満載で痛々しいものなのだ!

 詳しくは実際に見てもらう方が早いね。というか、あれを詳しく説明するなんて一種の精神攻撃ですから!


 ぐるぐると指定に沿った順序で木々の間を行ったり来たりして準備完了となる。憂鬱な気持ちを「ふう……」とため息とともに吐き出して、覚悟を決める!

 右手の指を開いて顔に当てつつ、すっと左手を前方へと伸ばした。


「我が望むは輝かしき栄光。ここに誓う。夢に敗れ(しかばね)となりし者どもを踏み越え、真理へと辿り着くことを!」


 言い終えた瞬間、虚脱感から崩れ落ちそうになる膝を懸命に心の中で叱咤(しった)しながら、その時がくるのを待つ。もしもこれで失敗だったらボクは羞恥で死ねてしまうだろう。ほんの一秒か二秒の時間がとてつもなく長く感じられていた。


 ふと、目の前の空間がぼやけたかと思えば、水に落とした油のような膜が二本目と三本目の間に広がった。……良かった。無事に門を開くことができたらしい。


「すごい。本当に開きました」

「やりましたわね。これで頂上までは行けたも同然ですわ!」


 スラットさんいわく「中に入ればすぐに階層間を移動するための装置が見つかる」とのことではあったけれど。ミルファさんや、あまり先のことを言うとフラグになりそうだから止めて……。

 突っ立っていても物語は進まないし、門が閉じてしまうかもしれない。もう一度あれをやるのは絶対に御免――精神がもたないという意味で本気で無理です――なので、さっさと行きましょう。


 薄膜に触れた途端に景色は一変していた。気が付けばボクたちは薄暗い部屋のような場所に立っていた。広さは縦横十メートルほどで、高さは三メートルほどだろうか。光量自体が少ないため部屋の隅は茫洋としてはっきり見えない。


「急に切り替わったから狭苦しく感じるね」


 広さとしては十分あるはずなのだが、さえぎる物がなかった野外に比べればどうしても窮屈となる。薄暗さとも相まって妙な圧迫感だ。


「三人とも、出てきて」


 どうにも嫌な予感がぬぐえずエッ君とリーヴ、トレアの三人を『ファーム』から呼び出す。


「みんなすぐに動けるように準備して。ネイト〔警戒〕で周囲を探って」


 旅の最中は意識的に使うようにしていたからボクの技能熟練度も高くなっていたが、それでも先行していたネイトの精度には及ばない。確実を期すために彼女に気配を探ってもらうと……?


「後方!?何かが近付いてきています!それと右側からも……、これは、上!?」

「【光源】!」


 視界が不明瞭なのは致命的だと判断して明かりをつける。その時にはもうみんな行動を開始していた。

 右側から迫っていたのはスライム系の魔物だった。ヒュンと弦の鳴る音を残して放たれたトレアの矢に射抜かれて、天井を張っていたそれはべちょりと床へと落下してくる。


「くっ!見え辛いので距離感がつかみにくいですわね!」


 一方、背後からにじり寄っていたのは人型らしい何かだ。半透明もしくは保護色のようなもので輪郭がはっきりしない。ミルファとリーヴが二人がかりで対峙(たいじ)することで押し込まれてはいないようだが、あちらからの攻撃をさばくので手一杯という印象だ。


 カラーボールのような着色系のアイテムがあれば一目瞭然となるかもしれないが、さすがにそんな都合よく購入しているはずもなく。

 そして落下はしたものの、スライムもダメージの影響は見られずうにょうにょとうごめき始めている。ボクはどちらから対処するべきなのだろう?


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― 新着の感想 ―
[一言] >カラーボールのような着色系のアイテムがあれば一目瞭然となるかもしれないが、さすがにそんな都合よく購入しているはずもなく。  あるじゃないか。  カレーが。  色がついたら、その色は落ちに…
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