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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第八章 一人目の仲間

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89 パーティー結成

「これからパーティーを組んで活動するというなら、パーティーの名前を決めておいた方が良いだろうね」


 エッ君とリーヴに慰められること数分、ようやくミルファショックから立ち直ったボクにデュランさんがそう提案してきた。


「それって、ないとダメですか?」


 男の子たちほどではないにしても、ボクだって思春期真っ盛りの頃には自分への特別感や万能感などを持ち合わせていた。

 そして一般娯楽から児童文学に至るまで、ファンタジーな世界観を持つ作品が市民権を得ている中で育ってきた身としては、そうした者からの影響を多分に受けている訳でして……。


 えー、つまり何が言いたいのかというと、


「中二病が再発してしまいそうな危険なイベントは止めて!」


 ということなのだ。


 「パーティー名を決めるだけで何を大袈裟な」と思われるかもしれないけれど、こういう小さな積み重ねが心の堤防を徐々に侵食していくのですよ!

 事実、最初はあれほど恥ずかしかった魔法や技の名前を声に出すことが、今では何とも思わなくなってしまっているのだ。


 仮に今、ゾイさんやデュランさん辺りから「呪文の詠唱をすることでオーバーロードさせた魔法を正確に制御できるようになる」と言われたら、躊躇(ちゅうちょ)しながらでも結局は飛び付いてしまうと思う。

 それくらい常日頃の行動は心身に影響を与えるのだ。


「絶対に必要とは言わないが、協会の人間として言わせてもらうなら、あった方がありがたい。パーティーを組むようになれば依頼を受けるのもそれ単位となる。「誰々のパーティー」なんて面倒な呼び方をしていては混乱の元だからね。それにパーティーへの所属意識を高めてメンバー同士の連帯感を高めることにもなる」


 名前があるだけで「自分は○○の一員だ」という気持ちになり易いのは確かだ。

 何だかんだ言ってミルファとは長い付き合いになりそうな予感がするし、ここは変に強情を張るべきではないかな。


「分かりました。何か良さそうなものを考えてみます」


 キラキラな名称にならないようにだけ気を付けていれば、心に傷を負うような事態にはならないだろう。


「という訳で、何か良さげなものはあるかな?」

「人に振る前に少しは自分でもお考えなさいな!?」

「やだなあ。ボクたちの中に新しく入ってきた形だから、ミルファが孤立しないように率先して話題を振ってあげただけだよ」

「なぜだかその言葉に素直に頷けないわたくしがいますわ……」


 考えるのが面倒だっていう部分も確かにあるけれど、ミルファのことを気にかけているっていうのも本心ですよ。


「それではクリムゾンローズ――」

「却下。ボクたちのどこにもクリムゾンでローズなところはないよね」


 エッ君は卵の白に足や尻尾は暗めの緑系の色だし、リーヴは白銀に輝く鎧姿だ。

 ボクが装備している初心者用の服は上下ともに地味な褐色系統で、ミルファだって派手な金髪とは裏腹に、その装備品の色合いは落ち着いたものとなっている。

 はっきり言って真紅(クリムゾン)な要素なんて一つも見当たらないのだ。薔薇(ローズ)に関しても以下同文。


「むう……。で、ではイエロートパーズ――」

「きゃーっか!!」

「な、何故ですの!今回はリュカリュカの美しいライトブラウンの髪色にちなみましたのに!」

「だからってそんなキラキラしたものはダメ!それに長くなりそうだし!」


 パーティーの名前なんだから、自分たちだけじゃなくて他の人からも分かり易くかつ覚えやすいものじゃないといけない。


「むむう……。リュカリュカは我が儘ですわ!」

「はいはい、ごめんなさいね」


 涙目で睨んできても怖くないから。

 むしろ可愛い。


 これを狙ってやっているならあざとい人だと嫌う事もできるけど、どう見ても素なんだよね。ミルファを甘やかしてしまっていた周囲の人たちの気持ちが何となく理解できてしまった……。


「はっはっは。これはリーダーとしてリュカリュカ君が決めるしかないようだね」


 笑いながら仲裁に割って入ったかのように見えるデュランさんだけど、その目は「こっちは忙しいんだから、さっさと決めて帰れ!」と雄弁に物語っていた。

 その圧力にちょっぴりビビりながら、何か良い案はないかと頭を働かせる。


「えーと、『兜卵印』は薬品類でブランド化しているから、そのままは不味いよね。でも、繋がりが分かるものの方が良いのかな?」


 と、そこまで口にしたところで頭に思い浮かんだのが、卵の殻を被ったひよこのイメージだった。


「うん。『エッグヘルム』とかどうかな?」

「『エッグヘルム』?ああ、薬の『兜卵』を逆さまにした訳だね」


 ああ、やっぱりデュランさんにはすぐにバレてしまったようだ。一方、事情を知らないミルファは頭上に大量の(ハテナマーク)を浮かべていた。


「実はボク、〔調薬〕技能持ちで、こんな物も販売しているんだ」


 アイテムボックスから取り出した例の品を彼女に渡す。


「これは……、液状薬(ポーション)ですの?」

「当たり。と言っても雑草から作る超低級ポーションだから、ほとんどの人は一ポイントしか回復しないけどね」

「……そんな物、商品になりますの?」


 うん。そう言いたくなる気持ちはとっても理解できる。

 でも、これが飛ぶように売れているのが実際のところだったりするから、世の中どんなものがヒット商品になるのか分からないものだ。


「まあ、我々冒険者や騎士団に衛兵隊など戦いが身近にある人間や、行商人のように街の外へと出なくてはいけない人たちにとっては使い道がない代物だろうね。だが反対に、町の中で生活している人々にとってはこれで十分ということになるのだよ。ここでも職員用に数本確保しているくらいだからね」


 デュランさん、フォローありがとうございます。ミルファもその説明に納得したのか、しきりに頷いていた。


「知らないことというのは、わたくしが思っている以上にたくさんあるのですわね……」


 ボクとしては、お城にまでは情報が伝わっていないことにホッとした気持ちだ。そういえば、公主様もこの件については何も言っていなかった気がする。

 できればこのまま、放置しておいて欲しいけど、ミルファにバラしてしまったからそういう訳にはいかないだろう。


「この機会に、様々なことを学びませんと!」


 と気合を入れている金髪美少女の隣でボクは、あまり忙しくならなければいいな、などと考えていた。


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