884 暴露されてみよう その3
秘密にされていた裏話だとか、設定的なあれやこれやを教えてくれるのが楽しくて、ついつい話題がとっ散らかってしまった。しかし、そろそろいい加減本題に戻るべきだろう。
「それで、結局これまでにボクたちがやってきたことで『天空都市』と死霊たちを封じ込めることはできたの?」
「封じ込めるだけならほぼできているだろうね。知っての通り死霊たちには自我らしきものもほとんど残っていない。加えて術式の影響もあって『天空都市』に執着しているから、よほど強く命令でもされない限りはさまよい出るようなこともないだろうさ」
そして死霊の中には当時の『王』も含まれている。どこまでそのプライドなどが残っているかに因るのだろうが、王に命令できる人などそうはいないと思う。
「それならまあ、一安心ということになるかな」
「……残念だけど、そうとも言い切れない」
「えっ!?」
呟くスラットさんの顔はこれまでにないほど、真剣で深刻なものとなっていた。
「『神々の塔』の頂上からは今でも『天空都市』へと渡ることができる。そして、そのための最大の難所を君たちが消し去ってしまった」
クンビーラ近郊の地下遺跡の二枚目の絵、見上げるような構図で『大霊山』が描かれていたのは、『天空都市』へと至る道筋であることを暗示したものだったのかもしれない。
「……誤解しないで欲しいんだけど、二人を開放してくれたことには心の底から感謝しているんだ。だけど一番の障害がなくなってしまったことは事実でもある」
「そうさせないために最後の壁としてスラットさんがいるのではないの?」
「王弟殿下とちやほやされていた僕にそんな力があると思うかい」
「……答え辛い問いかけは止めて欲しいなあ」
まあ、普通は守られる側だろうから、強いとは思えないよね
「そういうことさ。この場にいる必要も意味も全くなかったのだけど、あのまま『天空都市』に居るのは危険な気がしてね。あれやこれやと言い訳を付けて逃げてきたのさ」
彼の言う危険とは、死霊となった秘術に対する危機意識が働いたのか、はたまた本来的な命を狙われるという意味だったのか。どちらも相応にありそうな気がする。
「……あれ?どうして『天空都市』の人たちは死霊になったの?」
スラットさんとの会話から、秘術なるものの影響だということは理解できていたが、何を目的としたのものだったのかまでは聞いていなかった気がする。
「おっと、そういえばまだだったね。『天空都市』が『空の玉座』にヴィータの街と結合させたものだというのは話した通りさ。その際、いくつもの飛行のマジックアイテムが用いられた。しかし、だ。こちらは『空の玉座』とは異なり燃料を必要とした」
「緋晶玉だね」
ボクの答えにスラットさんは満足そうに頷く。『空の玉座』の方には燃料がいらないということに非常に興味が引かれたけれど、脱線しそうなので我慢する。『古代魔法文明期』の遺産のようだから、彼もその原理は知らないのかもしれない。
「正解。反乱側の力が増して火卿と土卿があちらについた結果、燃料の緋晶玉が届かなくなってしまった。このままでは『天空都市』を維持できなくなる、というところで王はある提案を認可してしまった」
それは悪魔のささやきにも似た、狂気に満ちた甘言だった。
「提案を行ったのは当代きっての魔導技師にして宮廷魔術師の男だった。正四面体のマジックアイテムを改修してあの罠を作り上げたのは彼の弟子にあたる人物だよ」
つまり師匠が師匠なら弟子も弟子な、色々と大事な一線を嘲笑しながらたやすく踏み越えてしまうマッドな研究バカということだったようだ。
「そこは能力だけじゃなくて、人格とか性格とかを含めて重用するようにしておいて欲しかったなあ……」
「もう滅んでいるからね。反面教師というか、失敗例として活かしてもらうしかない」
そんなマッドな危険人物からの提案がこちら。
『身体なんて飾りみたいなものだから捨てて身軽になっちゃおうゼ!あ、でもせっかくだから『天空都市』の燃料に有効活用しちゃいましょう大作戦!!』
ふざけているようにしか思えないけれど、これが正式名称だったのだとか。それを聞いた瞬間『大陸統一国家』は滅びるべくして滅びたのだと確信したね。
しかし、ふざけた名称とは裏腹に出来が良い作戦だったことも事実だ。今日まで『天空都市』が落ちることなく空の彼方に浮かんでいるのがその証拠だろう。
「唯一の誤算は、肉体を捨てた時に自我を保つことができなくなってしまったことかな」
「そうして死霊の大群の出来上がり、と……。」
「強力で凶悪な兵器は残ったままだから、反乱側も何とかして『天空都市』へと辿り着こうと頑張ったようだけど、あの罠を越えることはできずに有耶無耶のままいつしか戦いも終わってしまったのだろうね」
どうやってか『天空都市』が死霊の巣窟になったことを知ったのかもしれない。強力でも使えないのであればないに等しいと妥協したのだろう。
「『大陸統一国家』のことが記録されていないのは、『天空都市』にある兵器を目覚めさせないためかしら?」
「まず間違いなくそれが狙いで意図的に仕組まれたものだろうね」
臭いものならぬヤバいものに蓋をして忘れ去ろうとしたのか。もしかすると三卿の足並みが揃わなくなったのかもしれない。共通の敵がいなくなった途端、内輪の競争が始まるというのはアリがちな展開だ。それぞれがけん制し合った結果、忘れ去るという方向に進んだのかもしれない。
「だが、完全に消し去ることはできなかった」
スラットさんの言葉に背筋がゾワリと粟立つ。
クンビーラ近郊の地下遺跡しかりキューズたちホムンクルスしかり、『大陸統一国家』の遺産を狙う者はいなくならなかった。かくいうボクたちだって利用するのではなく処分しようとしているという違いはあっても、狙っているという一点では同じだ。
「このままだといずれ誰かが『天空都市』にたどり着いてそこにある物を悪用する、と?」
「道は既に切り開かれてしまっているからね。そうなったとしてもおかしくはない」
……はあ、やれやれ。始めたことはきちんと最後までやり遂げなさいってことかい。
仕方がないなあ。『天空都市』までもうひと頑張りするとしましょうか。




