882 暴露されてみよう その1
緋晶玉が産出される迷宮?
「ああ、『火卿帝国』にあったアコと出会った迷宮と同じですわね」
「今でも『ファーム』の中に迷宮はありますけど、あそこへはリュカリュカの許可がなくては入れませんし、実質潰したようなものでしょうか」
アコの迷宮は現在うちの子たちの遊び場になっている、らしい。『ファーム』の中のことは基本ノータッチでうちの子たちに任せてあるからよくは知らないのだよね。ただ、一応今でも緋晶玉を生み出すことはできるみたい。
「え?もしかしてあの迷宮を潰したのかい?」
「それっぽい所なら攻略したよ」
そんな訳で『火卿帝国フレイムタン』での冒険をスラットさんに語って聞かせる。
「………………」
「あの時はいきなり見ず知らずの森の中に転移させられて、正直焦りましたね」
「転移した場所が安全地帯だったのが不幸中の幸いでしたわね。……今のわたくしたちならあの魔物たちとも渡り合うことができますかしら?」
あの森は『聖域』や『帰らずの森』なんていう別名があったし、正式な案内を付けてもらえれば安全に行き来できたからなあ……。
別件で長編イベントの舞台になってもおかしくないだけの設定が作り込まれていた訳で、レベルに応じたこちらよりも一回り強い魔物が出現するようになっていってもおかしくなさそうだ。
と、ここでようやく停止していたスラットさんが再起動する。
「……これは驚いた。まさかそこまでしっかりと対処されているとは思わなかった」
「いや、でもあの時は肝心の『転移装置』を破壊するどころか発見もできていないんだよね」
「それなら問題ないさ。『転移装置』が配置されていたのは迷宮の中だったし、そもそもあそこは『天空都市』ではなく、緋晶玉を質ごとに選り分けたりサイズをそろえたりする工房に繋がっていたはずだよ」
もしかして、『火卿エリア』に転移する原因となった『土卿王国ジオグラント』山中のあの遺跡のような洞窟のような場所のことかしらん?
それならあの場所に緋晶玉が大量に置かれていたことにも一応の説明はつく。
「それじゃあ、その工房から『天空都市』に転移できるようになっていたの?」
「いや、違う。『転移装置』が据えられていたのは工房から少し離れた専用施設さ。知っていると思うけれど緋晶玉は取り扱いを誤ると暴発する危険物でもあったからね。ちなみにそこは土卿が反乱に加わった時点で念入りに破壊されているから気にする必要はないよ」
それはそうだ。どちらの陣営にとっても、いきなり喉元に刃物を突き付けられるかもしれないとなれば、破壊するという方向に動くのは当然だわね。
んー……。この際だから色々と尋ねてみようか。ずっと一人でいて退屈していたかもしれないから、意外と答えてくれるかもしれない。
「北の『水卿公国アキューエリオス』にあるウィスシーの畔で門型の『転移装置』を発見したんだけど、あれは『天空都市』と関係があったのかな?」
「ウィスシー?なんだいそれは?」
「え?『水卿エリア』の中央に広がる巨大な湖だけど?」
水龍さんが住み着いていることまでは放さなくてもいいだろう。クンビーラのような『風卿エリア』の都市国家ならば、周辺の支配地域ごと丸々入ってしまいそうなほどの大きな湖だと説明すると、怪訝な表情で考え込んでしまった。
「僕たちの時代には水郷に管理を任せていた土地に巨大な湖など存在していなかった」
なんですと!?
「ただ、それが生まれた原因は知っているかもしれない」
そう言うと人差し指を立てるスラットさん。……上?『天空都市』のことか。ボクもやったことだからね。ボケませんよ。
それにしても考え込んでいた時といい、今といい、美形な人はどんなポーズでも似合ってしまう。こちらのボクも超絶美少女のはずなのだけれど、そんなボクよりも絵になっているのだからモヤモヤしてしまうよ。
それはともかく、詳しいお話を聞いてみましょうか。
「ウィスシー、湖と『天空都市』にどんな関係があるの?」
「その前に君たちは『天空都市』についてどれくらいのことを知っているんだい?」
「お空に浮かんでいるってことくらいだね!」
なにせ『天空都市』というベタベタな呼称すら知らなかったからねえ。
「それ以外は死霊が巣くっていることくらいしか知りませんけれど……」
「自慢そうに答えることではないですよね……」
ミルファとネイトが何か言っているけど、突っ込んでいると止まらなくなるのでとりあえず無視しますですよ。
「了解。最初から話した方が良さそうだ。……そもそも、僕たちの国が大陸を統べることができたのは『古代魔法文明期』のある遺産を発見して修復したからなんだ。それが『空の玉座』。『天空都市』の前身であり中枢だよ」
当時は群雄割拠な戦国時代が長らく続いていたことで、大陸中が疲弊していた。そうした事情もあって、空を飛ぶという分かりやすく圧倒的な象徴の下に人々が集いまとまっていったのだとか。
ちなみに大きさは周辺施設を含めたお城一個分、らしい。
「建国までの道のりは驚くほどに平坦だったそうだよ。それくらい当時の人たちは戦いに飽き飽きしていたんだろうね。そうしてつくられた国が内輪の争いによって滅んでしまったっていうのは、皮肉が利いたどころかもはや出来の悪い冗談並みに笑えない話だよ」
その嘲りに満ちた言葉は、誰よりも彼自身に向けられているような気がした。
「今より、ではなかった。ええと、『大陸統一国家』崩壊からおおよそ百年ほど前に『天空都市』への拡張が行われたんだ。やり方としては都市の地下に『空の玉座』とリンクさせた飛行のマジックアイテムを組み込んで、強引に合体させて空へと持ち上げてしまおうという、……まあ、お世辞にもスマートとは程遠いやり方だった」
その背景には、燃料になる緋晶玉の発見と迷宮からの安定供給、空を飛ぶマジックアイテムの開発と実用化という二つの事象があったという。
「そして『天空都市』の候補地として選ばれたのが、水卿のお膝元で当時最大の街として大陸全土にその名を轟かせていたヴィータだった」
あ、なんとなく分かってしまったかも。
「そのヴィータの街があった場所って、もしかして『水卿エリア』のど真ん中じゃないですか?」
「その通り。君たちが言っていた巨大な湖というのは、恐らくはヴィータの跡地に長い年月の間に水が溜まってできたものだろうね」
多少の変化はあったとしても、ウィスシーとほぼ同じ範囲の都市とかとんでもない広さだわね!?




