881 エネルギー足りない問題
うーん……。現段階だとどうにもこのスラットさんが敵なのか味方なのかの判別がつかない。いや、この言い方は適当ではないね。高確率で敵ではないと思う。
現代よりも魔法などの技術が進んでいた『大陸統一国家』時代の、しかも王弟というトップクラスの地位にある人だ。仮に本人が居やがったとしても、防衛のための様々なものが張り巡らされていたとしても不思議ではない。
そして……、ボク的にはこちらの方が重要だと思っているのだけれど、この人、そんな遥か昔からここに存在し続けているのだ。死ぬこともできずに。
あの二人と同じ?ノンノン!全く違うね。彼らの場合は閉鎖空間で数分間程度を何千何万、もしかするとその数万倍と繰り返していた。そのため体感時間としてはボクたちと一緒に行動していた数時間ほどでしかなかっただろう。
対してスラットさんの場合はというと、数千年だかそれ以上の気が遠くなるような時間を感じながら過ごしている。いや、もう本当によく気が狂わなかったものだよ……。
まあ、「不老不死だぜ、ひゃっほい!」と考える頭お花畑、コホン!ハイパーポジティブシンキングな人もいるだろうけれど、それだって前提として「やりたいこと」があるからではないかしらん。逆にそんなものがなければ、またはあったとしてもやらせてもらえないとなれば、過ごす時間は苦痛なものにしかならないのではないかな。
最低でもある程度の自由があって始めて好意的に受け止められるものだと思う訳ですよ。
ついでに言うと、優越感に浸るためだとかリアクション要因だとか理由はその人次第だろうが、他者の存在も不可欠に思える。極端な秘密主義者でもそれは変わらない。秘密にするための「誰か」が必要なのだから。
スラットさんが過ごしてきたのはそんな過酷な時間だった。にもかかわらず正気を保ち続けていられるような人が弱いはずがないのだ。
……一応補足。これで実はコールドスリープ的なもので時間をかっ飛ばしていたのだとすると、とっても恥ずかしいのでその点については考えないことにします。
と、なんやかんやと色々言ってきたけれど、つまるところ信頼しても大丈夫なのか、あと一歩踏み込むことができていないのだった。安心できる根拠がないといいかえてもいいかもしれない。
「この際だから正直に言っちゃうけど、あなたのことをどこまで信用していいのか分からない」
「いきなり直球でぶつけてきたね!?ま、まあその気持ちも理解できなくはないよ。僕が君たちの立場でも同じだっただろうし……」
「だから、騙されているかもしれない、嘘かもしれないと思いながらお話をさせてもらうことにしました」
「ちょっと待った!?そこはほら、信頼できるようになるまで胸襟を開いて接するとか腹を割って話すとかする場面じゃないかな!?」
「それを判別する方法がないよね。というかぶっちゃけその時間がもったいない」
「い、いやそこは相互理解を深めるために頑張ってもらいたいところなのだけど……」
ふむ。どのくらい演技かは分からないけれど、少しくらいはペースを乱すことができたかな。見た目はせいぜい二十代くらいの超美形な青年だけど、……あれ?外見からすでに強キャラなような?
その上中身は途方もない年月を生き抜いてきた最強メンタルなのだ。小手先だろうが姑息だろうが打てる手は打っておかないと、対等な話し合いをしているつもりがいつの間にか主導権を握られてついには取り込まれていた、なんてことになりかねない。
「やれやれ。あの罠を乗り越えて無事にここまでやってこられただけのことはあるということか。これは僕もうかうかとはしていられないね」
いえ、そこは存分に侮ってくれていて問題ないのですが!?
やめて!最初からトップギアとかいらないから!途中でピンチになりそうだから本気出すのも困るけれどさ!
「リュカリュカの策が裏目に出てしまったのでしょうか?」
「いいえ。あの方が自身で言われた通りの地位にあったならば、権謀術数が渦巻き権力に飢えた魑魅魍魎たちが跋扈する中で生きてきたはずですの。話し合う前にあのくらいの揺さぶりは必須だと思いますわ。ただ、誤算だったのはあっという間に立て直してしまったこと。格上だとは感じておりましたけれど、一枚どころか二枚も三枚も上でしたわね……」
解説どうもありがとう。そこまで理解してくれているのなら、お手伝いしてくれてもいいのよ?チラリと二人に目を向けると、視線が重なるよりも先にササッと逸らされてしまった。ぐぬぬ……。
まあ、その時になれば関心を引くなり話題を引き出すなりしてくれるとは思っているけれどね。
「君たちの目的は分かったよ。死霊たちを封じ込めるために『転移装置』を破壊しようとしたのも、良い目の付け所だね。『天空都市』は堅牢で強固だけれど、逆に攻めることには向いていないから」
いきなり始まったスラットさんの解説によれば、『天空都市』は権力の象徴といった面が強かったのだとか。
「武装の方にもその傾向が顕著でね。当時からよく欠陥品だと言われていたよ」
「欠陥品?なんだろう?ものすごく大きくて派手だったとか?」
「言われてみればそれも該当するけど、ちょっと違う。攻撃力を高めることに腐心し過ぎたんだ。最終的には山を一つ消し飛ばすほどの威力になってしまった。地形を変えるほどの攻撃なんて後でどんな悪影響が出るか分かったものじゃない。軍部の一部派閥からのしつこい要望を抑えきれずに、はったりや脅しには使えるだろうということで配備だけはされたのだけれどね」
リアルで言うところの戦略兵器みたいな扱いだったのかな。『大陸統一国家』は名前の通りアンクゥワー大陸全てを支配下に置いていた。滅亡直前のあの戦いはいわば内乱だ。明らかに負債が残ってしまうのであれば、「もはやこれまで!」で「死なばもろとも!」な理性も倫理観も何もかもが吹っ飛んだ精神状態でなければ使用をためらうのが当然だっただろう。
「それ以上に問題だったのが使用する魔力の量でね。それ用に備蓄がなければ一発撃つだけで『天空都市』が落下するとまで言われていたよ」
「それは確かに無視できない欠陥だわ。……あ、だから蓄魔石を運ばせないためにも『転移装置』を破壊するのが正解だと言ったんだね」
「そういうこと。ただ、緋晶玉を産出する迷宮が今でも残っているなら、根本的な解決にはなっていないけれどね」
うん?それってもしかして?




