878 マジックアイテムを止めろ
謎のマジックアイテムから煙のようなものが出たかと思えば、ボクたちMPが減少していた。これだけだとさっぱり訳わかめで、何を言っているのか分からない以下略状態なので、急いで確認と考察を開始する。
「まずボクたちの調子の変化だけど、虚脱感に襲われてMPが減ったのは、あの煙みたいなのが出た直後で合っているよね?」
「わたしはそう感じました」
「わたくしもですわ」
仲間たちが同意をしてくれた一方で、
「俺は何ともないぞ」
「私もですね」
凸凹コンビは異常なしだった。この点はこの閉鎖空間のパーツにされているか否かの違いと考えれば容易に説明が付く。そして、
「タイミング的にあの煙がMPが減った原因だろうね」
これについてはまず間違いないだろう。少々あからさまではあるが、本格推理ゲームではないのだからこれくらいが妥当なようにも思う。
「それじゃあ「何のためにMPを減らされたのか?」だけど、これはマジックアイテムの変化がヒントになるんじゃないかな」
「変化ですの?確か黄色だった二面の内の一面が赤くなり始めて……。そういえばいつの間にかまた黄色に戻っていましたわよね?」
「そうだね。煙が噴き出したのがその間に起きた出来事になるよ」
「……まさか、このマジックアイテムがわたしたちのMPを吸い取ったというのですか?」
「ボクはそうじゃないかと考えてる」
黄色から赤へと変化していたのは、マジックアイテムに蓄えられていたMPが減って危険領域にまで差し掛かったからではないだろうか。つまり注意から警告への変化だ。
そして周囲からMPを吸収するための機能が働いた。仮にもっと大量に吸い取ることができていたなら、元の黄色ではなく青もしくは緑へと変わっていたと考えられる。
「ボクたちが入り込んだことで設定されていた繰り返しの時間を超過してしまったのだろうね。だからより多くのMPが必要になったというところかな」
その不足分を侵入者から調達しようとするあたり、このシステムを組んだ人物は苦もなく合理性を追い求めることができる冷徹な性格だったのだろうね。
これまで『大霊山』を目指して行方不明となった人たちの何割かは、この極悪な罠でMPを吸い取られることで命を落としたのかもしれない。
「ということは、このままだとお前たちも危ないんじゃないのか?」
「まあ、そうなるかな」
「そんな!一刻の猶予もないではありませんか!」
「いやいや、そこまで切羽詰まっている訳でもないはずだから落ち着いて」
気が急いては視野が狭くなり解けるものも解けなくなってしまう。これ学生の常識。伊達にテストという制限時間に追われる苦行を繰り返している訳ではないのですよ。
特に今回の閉鎖空間の解除に失敗すれば、凸凹コンビは永遠にこの世界に取り残されてしまう可能性だってあるのだ。まだあわてるような時間じゃない、と逸りそうになる心を落ち着かせる。
しかし見ているだけ、触っているだけでは何も分からない。
「こうなったら〔鑑定〕を繰り返してみようか」
対象を細かく指定していけば新しい情報が見つかるかもしれないし、熟練度が上がってこれまでは不明扱いだったものが分かるようになるかもしれない。
……まあ、後者はかなりご都合主義的な展開だとは思うけれど。
とにかく、悩んでばかりいても始まらない。今はひたすら行動あるのみだ。
「……ここにいても俺たちは役立たずなだけだな」
「そうですね。ならできることをしましょうか。私たちはまだ探索していない向こう側の藪の中を調べてみます」
突如、凸凹コンビがそんなことを言い出した。その真意は何?今さらボクたちと敵対した所で二人が得るものは何もないはず……。
「……了解。あなたたちを傷つけるような罠はないと思うけど、一応気を付けてね」
だけど、既に難問を抱え込んでいる身だ。これ以上タスクを増加させるとキャパシティオーバーに繋がってしまう。ゆえに黙認するしかなかった。
それに、彼らの行動がありがたかったのも確かだ。仮に何かが見つかれば見落としを防ぐことに繋がるし、反対に何もなければ目の前の問題に集中すればいいという証明になる。
「行かせてしまって良かったんですの?」
「これで裏切られるようなら、もうどうしようもないかなと思ってさ」
後になって思い返してみれば、ほとんど自棄になっているようなもので、冷静になんてなり切れていなかったよね。だからこれが重要な布石だったとは気が付くことができなかった。
二人が戻ってきたのは十五分ほど後のことだった。
「おかえり。何か見つかった?」
「いいや、なにもねえ。こいつがそこらじゅうで枝に頭をぶつけたくらいだな」
「くっ、どうしてここの木はあんな低い所にまで枝が張り出しているのですか……!」
ああ、あのガサガサいう音の正体はそれだったのね。まあ、背が低いとは言ってもボクたちや相方と比較してであり、彼自身はピグミーのように小柄ではないからね。手入れもされていない木々ならそれくらいは普通です。
「そっちの様子はどうだ」
「……残念ながら進展なし。細かく指定を変えながら〔鑑定〕してみてもマジックアイテムで罠はないことしか分からないや」
ここまで通り一辺倒な反応を繰り返されるとなると、隠ぺい等の仕掛けが施されているのではないかと思われる。そして今のボクではそれを打ち破ることはできそうもない。
何度も確認しているが、頼みの綱の技能熟練度も上昇する気配を見せていなかった。
「悔しいけど、このままじゃお手上げだね」
残り時間も怪しくなっていた。実は凸凹コンビがいない間にもMP吸収が行われていたのだ。当然それに合わせて〔鑑定〕してみたけれど、結果が前述のとおりだ。
ちなみに、MPの方はアイテムを使って回復させていたので命に別状はない。が、何度も使える手段ではないことも事実なのよね。
「……一応、私たちにも確認させてもらえませんか?」
「そうだな。『古代魔法文明期』に作られた物ではあるが、長年国家が収蔵して管理してきたのも確かだ。俺たちならば気が付くことがあるかもしれん」
あのころに比べれば数段落ちるとは言っても、『大陸統一国家』の方が現代よりも高度な魔法技術を持っていたのだ。その時代に生きた彼らならボクたちでは分からないことも発見できる可能性は大いにある。
「はい」
「ありがとよ」
彼らの言葉を疑うこともなく正四面体のそれを手渡す。
「え?」
次の瞬間、二人の拳がマジックアイテムへと突き刺さっていた。




