877 色々、変わる色
雑木林の中で予想通りマジックアイテムを発見したボクたちだったが、どうやって装置を止めればいいのか分からない!?という新たな難問に直面することになった!
「二人は何かしらないんですか?あなたたちの時代の物ですよね?」
「おいおい、無茶を言わないでくれ。確かに『天空都市』には多くのマジックアイテムを収蔵していたが、それは『古代魔法文明期』に作られた用途の分らんものを回収したためだぞ」
「つまり我々にとってもあれは謎の多い代物なんです」
「……そんな物をよく使おうとしたものですね」
下手をすれば起動した瞬間一面焦土になっていたかもしれない。最悪『神々の塔』にまで被害が及んで、根元からポキッと折れて倒壊なんてしてしまったら、大災害では済まない規模の被害が発生していたことだろう。
「それだけ国家の側も追い詰められていた、その証左であると言えるのかもしれませんわ」
「過程はどうあれ、歴史的な事実として『大陸統一国家』は消滅していますからね」
ミルファとネイトの言葉を受けて、凸凹コンビが微妙な表情になる。閉鎖空間に隔離されたままとんでもない時間が過ぎていることにも気が付かないようにされていた訳だからねえ。実感も湧かなければ想像もできないのだろう。
当たり前だった世界がなくなっているというのはどれほどの恐怖なのか。もしかすると無意識に頭のセーフティー機能が働いているのかもしれない。
「……苦戦していたことは否定しねえよ。現にこいつとその仲間にここまで押し込まれたんだからな。だが、よく分からん物を使うほど国家のやつらは落ちぶれちゃいねえぞ。どうせあいつのことだ、密かに調べ尽くして性能も効果も理解したうえで投入したんだろうよ」
誇らしいような腹立たしいような、そんな複雑な表情になっている。そんなところまで織り込み済みでこの人を生贄にしたのなら、この件の首謀者はとことんまで性根が腐っていると思った。
それにしても、二人にも心当たりが何一つないのは弱ったね。
ダメ元でもう一度詳しく〔鑑定〕してみたところ、やはり罠ではないアンド罠が仕掛けられている様子もないことが判明したので、とりあえず枝から降ろして雑木林から出て元の場所に戻ることにする。
枝の上に乗っていたことから想像できた通りに重さは大したことがなく、ボクでも軽々と運べるくらいだった。
尖っているかと思いきや、それぞれの頂点は軽く落とされていて触れる程度では怪我をしそうにはない。その一方で辺の部分はエッジが効いていてこちらは下手に指を走らせると切れてしまいそうだ。
表面はつるつるのすべすべで、ひんやりとした触り心地と相まって金属のようだ。一通り撫でてみたがスイッチどことかかすかな凹凸すら発見できなかった。
地面に置いたそれをまじまじと観察してみる。鑑定の結果によればマジックアイテムであることに間違いはないらしい。上部の三面がそれぞれ赤青黄に塗りつぶされている。ちなみに地面接して見えなくなっているけれど、底面も黄色に塗られていた。
「何が何だかさっぱり分からん。その上目の奥が痛くなってくるぞ……」
色合いが濃過ぎる上に鮮やか過ぎるので、じっくり観察していると色々と感覚が狂いそうになってくるのだ。見れば皆も目元を揉んだり軽く頭を振ったりしている。
ああ、草原の柔らかな緑が目に優しい……。
「表面にないのであれば、もしかして……」
ぐっと各頂点を押してみたが動く気配はなし。あらら残念。はずれだったみたい。
「閉鎖空間を作り出すほどのマジックアイテムがそんな簡単な仕組みで止まるはずもないでしょう」
「そうかな?効果がとんでもない分、意外と簡単に停止できるようにしてあってもおかしくはないと思うけど」
誤作動を始め予定外の事態なんて起きないに越したことはないけれど、そういう万が一に対して備えることも大切だし、こんなとんでもない代物だからこそ備えていなくてはいけないはずだ。少なくともボクならそうする。
「思い付きで言っているんじゃなく、ちゃんとした理由があってのことか。だが、それなら確実にそこは変更されているだろうな」
「その根拠は?」
「あいつは人が悩んでいるのを見るのが何よりも好きなやつだからだ!」
「最悪な方ですわね!?」
「こういう人の逸話が広がることで、魔法使いやマジックアイテムの研究者は性格が悪いという偏見も広がっていったのでしょうね……」
ミルファの意見に全面的に同意します。そしてネイトの言う偏見は今でも割と農村部の方では残っているらしいです。クンビーラやシャンディラのように人の往来が激しい所では、母数が多い分魔法使いの人数も増えるから、そんな話が出ることはめったにないのだけれど。
余談だけど、これは何も魔法使いに限ったことではなく、剣術などの武術をたしなんでいる人は横暴だと思われているとかなんとか。
要は余所者に対するいわれのない偏見だわね。一方で冒険者の中には問題児も一定数混じっているから、そういう連中が過去に起こした問題が発端になっていることもあるかもしれない。
「いっそのこと、破壊してしまうのが一番手っ取り早いかも。……まあ、最後の手段だけど」
まさか、そんなことは言っていられなくなってしまうとはね……。
「何かおかしいですわ!?」
差し所にそれに気が付いたのは、ちょうどそちらの面の真向かいに居たミルファだった。
「い、色が変わっていっていますの!?」
見れば黄色だった面が徐々に赤みが強くなっている。そしてオレンジからさらに赤に近づくかという時、色が変化していた面の反対側に当たる頂点からもわっと煙のようなものが噴出した。
「あれ?」
途端に急激な虚脱感に襲われる。ネイトに至っては立っていられなくなり膝をついていた。この感覚には覚えがある。タマちゃんズと出会った時だ。
「みんな、急いでステータスを確認して!」
叫びながら僕自身のステータスを開いてみると、あの時とは異なりMPが減少していた。
「MPが減っていますわ!?」
「わ、わたしもです」
「俺は何ともないぞ?」
「私もです」
おやおや?ボクたちと凸凹コンビで反応が二分されてしまったぞ。そして、マジックアイテムの赤へと変化していた面が、いつの間にか黄色へと戻っていた。




